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売掛金の時効|法改正前と後の時効の年数と時効成立を防ぐ方法

売掛金の時効|法改正前と後の時効の年数と時効成立を防ぐ方法

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売掛金に関する法律には2017年5月26日に「民法の一部を改正する法律」が可決成立し、それまでの民法とは大きく変わりました。

売掛金が時効となる年数も次のように改正されており、2020年4月1日より施行されています。


2020年4月1日以降に発生した売掛金の時効期間:5年(または10年)

また、それより前に発生した売掛金の時効は次のように定められています。

2020年3月31日以前に発生した売掛金の時効期間:職種・債権の種類に応じて1~5年

具体的には次の一覧表のように分類されています。

【旧民法での売掛金の時効期間と債権の種類】

時効期間債権の種類
1年宿泊料金
飲食代金
運送費
レンタル料金  など
2年商品代金
製造業・小売店などの売掛金
弁護士報酬
月謝  など
3年診療報酬・治療費
建築代金・設計費
工事代金
自動車修理費  など
5年上記以外の売掛金
 
家賃
マンション管理費
コンサルタント料金 など

売掛金の時効期間は原則として、「施行日前に売掛債権が生じた場合」あるいは「施行日前に売掛債権発生の原因である法律行為がされた場合」は改正前の民法が適用されるため、注意が必要です。

時効を迎えそうな未回収の売掛金を回収するためには、

・自身の売掛金の時効は何年なのか
・その際の起算日はいつからになるのか
・時効が成立しないようにするためにはどんな方法があるのか

を理解し、対策を講じなければなりません。

そこでこの記事では、「売掛金の時効」について以下の内容を丁寧に解説していきます。

【この記事を読んでわかること】

• 売掛金の時効は何年で成立するのか【改正後・改正前】
• 時効成立の起算日はいつからか
• 売掛金の時効を成立させないための全ての方法

また、記事の後半では売掛金をより確実に回収するための方法として、売掛金の回収代行についても説明しています。

この記事を読むことで売掛金の時効が成立する条件を理解でき、成立させないためにはどうすればよいか、より確実に売掛金を回収するにはどの様な方法があるのかがわかります。

ぜひ最後までじっくりお読みください。

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目次

1.2020年4月1日以降の売掛金の時効は5年で成立する

2020年4月1日以降の売掛金の時効は5年で成立する

2020年4月1日から施行された改正後の民法では、次のいずれか早い方が経過した時に売掛金の時効が成立することとされました。

• 債権者が権利を行使することができることを知った時から5年
• 債権者が権利を行使することができる時から10年

 【民法166条 条文】

(債権等の消滅時効)
第百六十六条 
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
【引用:e-Govポータル 民法】

このように改正されていますが、実は売掛金においては、ほとんどの場合で「5年」が適用されています。

ではなぜ5年が適用されるケースが多いのでしょうか?

これには「起算点」の考え方が関与しています。

改正後の民法では、売掛金を含む債権の時効期間の起算点として「主観的起算点」「客観的起算点」という考え方を取り入れています。

起算点は改正前と改正後で次のように変更されています。

決算点 改正後

改正後の①②について平たく言うと、

 ① 権利行使ができることを知っていたけれども行使していない場合(主観的起算点)

 ② 権利行使ができることを知らずに行使していなかった場合(客観的起算点)

ということになります。

売掛金については、売買契約や商取引において通常は債権者と債務者がお互いに支払期限などの契約内容を知っていることがほとんどです。

したがって、債権者は当然「権利を行使することができることを知っていた」と考えられています。

そのため売掛金では「主観的起算点」が適用され、時効成立までは「5年」が一般的となっています。

権利を行使することができることを知った時と権利を行使することができる時とが基本的に同一時点であるケース

【出典:法務省HP「消滅時効に関する見直し」

なお、「客観的起算点」によって時効が10年となるケースの代表例としては、売掛金ではありませんが、消費者金融に対する「過払金返還請求権」が挙げられます。

2.法律改正前(2020年3月以前)の売掛金は債権の種類に応じて時効が異なる

法律改正前(2020年3月以前)の売掛金は債権の種類に応じて時効が異なる

2020年3月31日以前の売掛金の時効は商法522条によって「5年」と定められており、但し書きとして「他の法令に5年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる」とされていました。

 【商法522条 条文 ※現在は削除】

第522条
商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。
【引用:Wikibooks 商法第522条】

そのため実務上は、旧民法で職業別・債権の種類別に定められていた「1~3年」の短期間の時効が適用されています。

民法改正に伴って商法522条および旧民法の短期間時効に関する条文は廃止されていますが、改正前となる2020年3月31日以前に発生した売掛金に関する時効は、改正前の旧民法が適用されるため注意が必要です。

原則として、

  • 2020年4月1日より前に売掛債権が生じた場合
  • 2020年4月1日より前に売掛債権発生の原因である法律行為がされた場合

は、改正前の民法が適用されます。

では旧民法で定められていた短期間の時効について、種類ごとに内容をみていきましょう。

【旧民法での売掛金の時効期間と債権の種類】

時効期間債権の種類
1年宿泊料金
飲食代金
運送費
レンタル料金  など
2年商品代金
製造業・小売店などの売掛金
弁護士報酬
月謝  など
3年診療報酬・治療費
建築代金・設計費
工事代金
自動車修理費  など
5年上記以外の売掛金
 
家賃
マンション管理費
コンサルタント料金 など

2-1.身近なサービスに関する売掛金(債権)なら時効は1年

旧民法では、飲食代などの主に身近なサービスに関する債権について、時効期間を1年としています。

具体的には消費物の対価や立替金に関する債権、運送費の債権、動産の損金などが該当します。

なお動産とは、現金や商品などの不動産以外の財産のことを指します。

時効が1年となる物の例をいくつか挙げてみましょう。

・ホテルや旅館の宿泊料
・料理店や飲食店での飲食代金
・劇場や娯楽施設などの席代や入場料
・タクシー運賃やトラックの運送料
・歌手・芸人・俳優などの賃金
・大工や左官の賃金
・CDやDVD・OA機器・貸衣装・貸寝具などの賃借料

飲食店での支払いを後払いにするいわゆる「ツケ払い」は、立替金に該当します。

また、レンタル料の遅延金など、短期間の動産の賃借料金は動産の損金に該当します。

 【民法174条 条文 ※現在は削除】

(1年の短期消滅時効)
第174条
次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。
一  月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二  自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三  運送賃に係る債権
四  旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
五  動産の損料に係る債権
【引用:厚生労働省HP 民法改正に伴う消滅時効の見直しについて】

2-2.物の代金や専門的な技能に関する売掛金(債権)なら時効は2年

物の代金や専門的な技能に関する債権について、旧民法では時効期間を2年としています。

具体的には、商品代金に関する売掛金、職人等個人技能の仕事に関する債権、学芸や教育に関する債権、弁護士等の職務に関する債権等が該当します。

こちらもいくつか例を挙げてみましょう。

  • 製造業・卸売業・小売店などの商品代金
  • 理・美容院での料金
  • 和裁・洋裁など受注生産による制作物代金や手間賃
  • クリーニング代
  • 学校・学習塾・家庭教師・習い事の月謝
  • 弁護士・公証人報酬
  • デザイナーへのデザイン料
  • ライターへの原稿料

特に商品代金は「売掛金」としてイメージしやすく、売掛金の代表的なものとして一般的にも広く知られていますが、旧民法では時効が2年と短いので注意が必要です。

 【民法172・173条 条文 ※現在は削除】

(2年の短期消滅時効)
第172条
弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。
2 前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。

第173条
次に掲げる債権は、二年間行使しないときは、消滅する。
一 生産者、卸売商人又は小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権
二 自己の技能を用い、注文を受けて、物を製作し又は自己の仕事場で他人のために仕事をすることを業とする者の仕事に関する債権
三 学芸又は技能の教育を行う者が生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権
【引用:厚生労働省HP 民法改正に伴う消滅時効の見直しについて】

2-3.医療や工事に関する売掛金(債権)なら時効は3年

旧民法では、医療や工事に関する債権では時効期間を3年としています。

具体的には診療報酬に対する債権、建築費や工事代金など、技師や請負人の工事に関する債権などが該当します。

同様に、いくつか例を挙げてみましょう。

  • 医師による診療報酬
  • 助産師による助産報酬
  • 薬剤師による調剤報酬
  • 建築設計や建築工事の費用
  • 工事の設計・施行・監理の請負代金
  • 自動車の修理費

工事に関する債権とは関係の無いような自動車の修理費も、旧民法では時効が3年とされているので注意しましょう。

 【民法172・173条 条文 ※現在は削除】

(3年の短期消滅時効)
第170条
次に掲げる債権は、三年間行使しないときは、消滅する。ただし、第二号に掲げる債権の時効は、同号の工事が終了した時から起算する。
一 医師、助産師又は薬剤師の診療、助産又は調剤に関する債権
二 工事の設計、施工又は監理を業とする者の工事に関する債権

【引用:厚生労働省HP 民法改正に伴う消滅時効の見直しについて】

2-4.上記以外の売掛金なら時効は5年

上記以外の売掛金の場合、旧民法では基本的に5年で売掛金の時効が成立します。

たとえば家賃やマンションの管理費、地代などが該当します。

また、なんらかのコンサルタントサービスを行った場合のコンサルタント料金も、旧民法では時効が成立するのは5年です。

3.売掛金の明確な時効を把握するために起算日を把握しよう

売掛金の明確な時効を把握するために起算日を把握しよう

売掛金がいつ時効になるのかを正しく知るためには、時効の期間がいつからはじまるのかという「起算日」を把握しておくことがポイントです。

起算日の捉え方を間違っていたばかりに、「一日差で時効期間が経過してしまっていた」といった事態は絶対に避けたいものです。

3-1.起算日の捉え方

起算日の捉え方は、支払期限の有無によって異なります。

• 支払期限の定めがある場合の起算日(起算点)→ 支払期限の翌日から
• 支払期限の定めがない場合の起算日(起算点)→ 契約日の翌日から

例外として、請負代金(デザイナーへのデザイン料、ライターの原稿料など)で支払期限の定めがない場合は、成果物を完成させて最終的に注文者へ納品(引き渡し)したときが時効の起算点となります。

なお、起算日は民法140条「初日不算入の原則」に則って、その期間が午前0時から始まる場合以外は、初日を算入せずに支払期限や契約日の翌日からカウントします。

 【民法140条 条文】

第百四十条 
日、週、月又は年によって期間を定めたときは、期間の初日は、算入しない。ただし、その期間が午前零時から始まるときは、この限りでない。
【引用:e-Govポータル】

3-2.【事例①】民法改正後の時効の例

以上のことをふまえて、民法改正後の時効がどのように算出されるのか例を用いてみましょう。

【Case1】支払期限がある場合の例

2018年5月31日に売買契約を結び、商品代金を売掛金とし、支払期限を翌月末(2018年6月30日)とした場合

支払期限2018年6月30日
時効の起算日2018年7月1日(支払期限の翌日)
時効期間2年
時効完成日2020年6月30日

支払期限が設けられている場合は、支払期限の翌日を起算日として計算します。

改正後の民法なので売掛金の種類に関わらず時効期間は5年となり、起算日から5年後の2026年6月30日に時効が成立することになります。

【Case2】支払期限がない場合の例

2021年5月31日に売買契約を結び、商品代金を売掛金とし、支払期限を設けなかった場合

支払期限なし
時効の起算日2021年6月1日(契約日の翌日)
時効期間5年
時効完成日2026年5月31日

支払期限が設けられていない場合は、契約日の翌日を起算日として計算します。

そして上記例と同様に時効期間は5年となり、起算日から5年後の2026年5月31日に時効が成立することになります。

このように同じ2021年5月31日に売買契約を行っていても、支払期限の有無によって時効の完成日が異なります。

3-3.【事例②】民法改正前の時効の例

では民法が改正される前に発生した売掛金ではどうでしょうか。

【Case1】支払期限がある場合の例

2018年5月31日に売買契約を結び、商品代金を売掛金とし、支払期限を翌月末(2018年6月30日)とした場合

支払期限2018年6月30日
時効の起算日2018年7月1日(支払期限の翌日)
時効期間2年
時効完成日2020年6月30日

改正後の例と同様に、支払期限が定められている場合は支払期限の翌日を起算日として計算します。

改正前の旧民法では商品代金の売掛金の時効は「2年」と定められていたため、起算日から2年後の2020年6月30日に時効が成立することになります。

【Case2】支払期限がない場合の例

2018年5月31日に売買契約を結び、商品代金を売掛金とし、支払期限を設けなかった場合

支払期限なし
時効の起算日2018年6月1日(契約日の翌日)
時効期間2年
時効完成日2020年5月31日

こちらも改正後の例と同様に、支払期限が設けられていない場合は契約日の翌日を起算日として計算します。

そして上記例と同じく時効期間は2年となるため、起算日から2年後の2020年5月31日に時効が成立することになります。

時効完成日はどちらも2020年4月1日を過ぎていますが、売掛金が発生したのが2018年5月31日であるため旧民法で計算することに変わりはありません。

4.時効の期限がきており債務者が「援用」の意思をしめしたら時効が完全に成立する

時効の期限がきており債務者が「援用」の意思をしめしたら時効が完全に成立する

では売掛金の時効が成立する日(完成日)がくると、自動的に時効が成立してしまうのでしょうか。

答えは「ノー」です。

時効が完全に成立するのは、時効の期限が経過した後に債務者が「援用」の意志を示した時です。

「援用」とは、債務者が債権者に対して「時効の制度を利用する」という意思を示す(告げる)ことです。

援用債務者が債権者に対して「時効の制度を利用する」という意思を示す(告げる)こと

時効の期限が経過した後、債務者が時効を「援用」することによって時効が完全に成立し、債権者は売掛金を請求する権利が消滅してしまいます。

こうなると、売掛金の回収は不可能になります

逆に言うと、債務者からの時効の「援用」がなければ売掛金の時効は成立しません。

つまり支払いが遅れている売掛金を回収するのに重要なのは、債務者によって「援用」がなされないよう、時効の完成日の経過を回避して時効を成立させないことです。

5.売掛金の時効を成立させないための方法一覧

売掛金の時効を成立させないための方法一覧

売掛金の時効を成立させないためには、「更新」または「完成猶予」をする必要があります。

これらは旧民法ではそれぞれ「中断」または「停止」と呼ばれていました。

民法改正に伴って「中断→更新」、「停止→完成猶予」と呼び方を変えてより分かりやすくなるよう改正されたものであって、内容自体にそこまで大きな変化はありません。

時効が成立する前に「更新(中断)」または「完成猶予(停止)」の措置をとることで、時効期間をリスタートしたり一時的にストップしたりができ、時効の成立を阻止することができます。

5-1.時効成立を防ぐには「更新」と「完成猶予」を行う

時効の成立を防ぐには、基本的に改正後の新民法に則って「更新」と「完成猶予」を行います。

「更新」とは一定の事由によって時効期間がリセットされ、再び時効期間がゼロからスタートすることをいいます。

また、「完成猶予」とは一定の事由によって時効の進行が一時的にストップされ、その間は時効が完成されないことをいいます。

更新一定の事由によって時効期間がリセットされ、再び時効期間がゼロからスタートすること
完成猶予一定の事由によって時効の進行が一時的にストップされ、その間は時効が完成されず先延ばしにできること

「更新」または「完成猶予」をするには、次の方法があります。

 ①  裁判上の請求等
 ②  強制執行等
 ③  仮差押又は仮処分
 ④  催告
 ⑤  協議を行なう旨の合意
 ⑥  承認

これらは「更新」または「完成猶予」するための「一定の事由」に該当するもので、更新をするには①②⑥のいずれか、完成猶予をするには①~⑤のいずれかの方法(事由)によって行えます。

【更新・完成猶予の方法(一定の事由)一覧表】

方法(一定の事由)更新の可否完成猶予の可否
①裁判上の請求等
判決等で権利が確定したときに
更新される

事由終了時まで完成猶予される
②強制執行等
事由が終了したときに
更新される

事由終了時まで完成猶予される
③仮差押え又は仮処分×
事由終了時から完成猶予される
(6か月間)
④催告×
催告時から完成猶予される
(6か月間)
⑤協議を行なう旨の合意×
・合意から1年(最長5年間)
・合意で定めた期間
・協議の続行拒絶通知から6か月間 のいずれかの期間完成猶予される
⑥承認
債務者の承認が取れたときに
更新される
×

これらを行う際の流れとしては、「完成猶予→更新」の順に行われることが一般的です。

以下の流れが、代表的な流れとして挙げられます。

1.訴訟を起こして完成猶予の後、判決によって権利を確定し更新する(最も一般的)
2.内容証明で相手に支払いを求め(催告)、完成猶予した後に訴訟を起こして更新する
3.一部弁済等により相手が債務を認める(承認)ことによって、時効を更新する

まず何らかの事由を用いて時効の完成猶予を行い、その間に裁判の準備や手続きをして時効の更新が行われるようすすめます。

相手(債務者)による「承認」を用いた場合は、裁判等を行うこともなく迅速に時効を更新することができます。

しかし「承認」は債務者の協力を得るのが難しかったり、証拠を揃えるという点でなかなか簡単にはいかないのが現状です。

5-2.新民法施行前に事由が発生したら旧民法が適用される

新民法の施行日である2020年4月1日より前に「中断」または「停止」の事由が生じた場合は、旧民法が適用されます。

先述の通り、旧民法で売掛金の時効を成立させないための事由(方法)として存在していた「中断」と「停止」は、民法改正に伴って「中断→更新」「停止→完成猶予」と呼び方を変え、わかりやすく整理されたものです。

したがって内容に大きな変化はなく「中断=更新」、「停止=完成猶予」と捉えても差し支えない程度ですが、一部変更点もあります。

たとえば「中断(更新)」に関しては、旧民法において時効の中断を生じさせる事由は、

 ・ 請求(裁判上の請求)
 ・ 差押え、仮差押え又は仮処分
 ・ 承認

となっています。

しかし改正後の新民法では「差押さえ、仮差押え又は仮処分」は更新(中断)の事由にはなっておらず、完成猶予(停止)のみが可能となっています。

また「完成猶予(停止)」に関しては、前項目の【更新・完成猶予の方法(一定の事由)一覧表】にある「⑤協議を行なう旨の合意」という事由は改正後の新民法で新たに設けられたものです。

したがって、2020年4月1日より前に両者で合意がなされていたとしても適用されません

これらの点に注意しておけば、大筋の内容は新民法の「更新」または「完成猶予」とほぼ同様といえます。

それでは次項より、「更新」と「完成猶予」の方法について詳しくみていきましょう。

6.売掛金の時効を「更新」する方法は3つ

売掛金の時効を「更新」する方法は3つ

時効を「更新」する方法(事由)は、上記の一覧表中の

 ① 裁判上の請求等
    ② 強制執行等
    ⑥ 承認

の3つです。 これらによって更新が行われたら、時効の期間がリセットされて新たに時効期間がスタートします。

時効の更新

先述の通り、この中で一番手間なく更新が行えるのは「承認」です。

したがって、まずは債務者による承認が取れないかを検討するとよいでしょう。

承認が取れない場合、いずれかの方法で「完成猶予」を経て「更新」ができるようすすめていきます。

6-1.裁判上の請求等とは

裁判上の請求等とは、裁判の手続きをして裁判所に訴え提訴をすることなどがあります。

具体的には、

・裁判上の請求
・支払督促
・起訴前の和解
・調停の申立て
・破産手続参加

などが挙げられます。

裁判上の請求等はよく用いられるため、完成猶予から更新までの流れを図で見てみましょう。

裁判上の請求等による完成猶予・更新

裁判所へ「訴えの提訴」などを行うと、手続きや裁判中の間は時効が引き延ばされ、完成猶予されます。

裁判が権利の確定(勝訴など)によって終了した場合、時効は更新され、これらの事由が終了したときから新たに時効期間がスタートします。

裁判で権利が確定することなく(敗訴など)終了した場合、売掛金の時効は終了時から6か月間引き延ばされ、完成猶予されます。

 【民法147条 条文】

(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)
第百四十七条 
次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 裁判上の請求
二 支払督促
三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停 四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。
【引用:e-Govポータル】

6-2.強制執行等

強制執行等とは、判決のような債務名義と呼ばれる根拠を取得している場合に、債務名義や担保権に基づいて行う裁判上の手続きです。

具体的には、

  • 強制執行
  • 担保権実行
  • 形式競売
  • 財産開示手続または第三者からの情報取得手続

などが挙げられます。

中でも強制執行とは、債権者の申し立てによって裁判所が強制的に債務者の財産から債権を回収できるようにする手続きのことを指します。

強制執行等の事由がある場合、事由が終了するまで売掛金の時効は引き延ばされ、完成猶予されます。

申立取下げや取消しによって事由が終了した場合、売掛金の時効は終了時から6か月間引き延ばされ、完成猶予されます。

申立取下げや取消し以外で強制執行等が終了したときに売掛金の時効は更新され、新たに時効期間がスタートします。

 【民法148条 条文】

(強制執行等による時効の完成猶予及び更新) 第百四十八条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。
一 強制執行
二 担保権の実行
三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続

2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。
【引用:e-Govポータル】

6-3.承認

承認とは、債務者が債権者に対して、債務の存在(債権者の権利)を認める行為のことをいいます。

債務者による権利の承認があったときに売掛金の時効は更新され、新たに時効期間がスタートします。

債務者による承認は、裁判上の手続きなどは一切必要ありません。

したがって、全ての方法(事由)の中で一番手間のかからない方法といえます。

ではどんな行為が承認にあたるのか、いくつか例を挙げてみます。

【承認の例】

・債務者に債務の表示された契約書等に署名押印させることができた場合
・債務者が債権の一部を支払った場合(一部弁済)
・代金を請求した際に、債務者より「何とか支払うのでもう少し待ってほしい」という旨の回答があった場合

このように、債務者が債務の存在を認めている場合だけでなく、債務があることを前提に話を進めている場合も承認に該当します。

なお、債務者の承認を取る際には必ずその「証拠」を残しておきましょう。

【証拠となり得るもの】

書面
メールの文章・履歴
音声データ(ボイスレコーダーやスマートフォンの録音機能等によるもの)

これらのいずれかを残しておけば、証拠として用いることが可能です。

 【民法152条 条文】

(承認による時効の更新)
第百五十二条 
時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始める。
【引用:e-Govポータル】

7.売掛金の時効を「完成猶予」する方法は5つ

売掛金の時効を「完成猶予」する方法は5つ

売掛金の時効を「完成猶予」する方法は、上記の一覧表中の

①裁判上の請求等
②強制執行等
③仮差押又は仮処分
④催告
⑤協議を行うなう旨の合意

7-1.仮差押又は仮処分

仮差押又は仮処分は、強制執行等の裁判の判決が出るまでの間、債務者が財産を処分できないようにするために行う手続きのことです。

仮差押えまたは仮処分の事由がある場合、売掛金の時効は事由の終了時から6か月間猶予されます。

仮差押えを行って、時効期間の猶予と債務者が財産を処分できないようにした上で訴訟を起こすといった方法はよく用いられます。

 【民法149条 条文】

(仮差押え等による時効の完成猶予) 第百四十九条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了した時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
一 仮差押え
二 仮処分
【引用:e-Govポータル】

7-2.催告

催告とは、裁判以外の方法で相手方に債務の支払いを求める行為のことです。

後々の裁判を考慮して、口頭などではなく内容証明郵便で催告書を送付するのが一般的です。

催告をすることによって、その時から売掛金の時効が6か月間猶予されます。

催告にはそれほど手間や時間がかからないため、「時効の成立する日が間近に迫っている場合」によく用いられる方法です。

裁判はなにかと時間を要します。

そこでひとまず催告し、催告によって時効が6か月間猶予されている間に裁判上の請求等や強制執行等の準備や手続きをおこないます。

 【民法150条 条文】

(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 
催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
【引用:e-Govポータル】

7-3.協議を行う旨の合意

「協議を行う旨の合意」は、民法の改正によって新たに追加された完成猶予の方法です。

たとえば、債権者と債務者が交渉中に時効期間が経過してしまいそうな場合に、両者間で「まだ話し合って協議を続けよう」といった旨の合意が書面でなされれば、売掛金の時効が1年間(最長で5年間)猶予されるというものです。

猶予期間は、

・合意から1年(最長5年間)
・合意で定めた期間
・協議の続行拒絶通知から6か月

のいずれかまで可能です。

なお、「協議を行う旨の合意」は改正後の民法であるため、2020年4月1日より前に引き続き協議を行うといった合意があったとしても、適用されないので注意が必要です。

 【民法151条 条文】

(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)
第百五十一条 
権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。
一 その合意があった時から一年を経過した時
二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時

2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。

3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。
【引用:e-Govポータル】

8.売掛金の回収で困ったら債権の回収代行を依頼するのもひとつの方法

売掛金の回収で困ったら債権の回収代行を依頼するのもひとつの方法

支払期限を過ぎた売掛金には時効があります。話をしてきたように、時効の成立を防ぐための手続きや請求業務など、回収にはとても時間と労力を費やします。

このような支払期限を過ぎた売掛金の回収をより確実に行いたい場合は、売掛金(売掛債権)の回収を代行してくれる先に依頼するのもひとつの方法です。

売掛金の回収代行を依頼できる先は、次の3つです。

債権回収代行を依頼できる先3つ
依頼先依頼できる人・企業依頼できる内容債権回収代行の方法
弁護士対象者の制限なし債権回収代行業務全般期日が到来しても、債務を履行しない債務者に対して、催告や、訴訟の提起・強制執行などの法的な手続きを通じて債権回収を代行
認定司法書士対象者の制限なし債権総額140万円以下の債権回収代行業務・
簡易裁判所での訴訟提起(地方裁判所、高等裁判所を除く)
同上
債権回収代行業者金融機関等特定金銭債権についての債権回収代行期日が到来しても履行されない債権を、債権回収代行業者が、リスクに応じた額面金額で買い取った上で、債権回収を代行

自社での回収が難しい場合は、それぞれの依頼先のメリットデメリットを把握したうえで、回収代行先の利用をおすすめします。

以下の記事にて、債権回収代行について詳しく解説していますので確認するようにしましょう。
債権回収代行とは?代行を依頼する先の選び方【ケース別フローチャート付】

9.まとめ

最後に売掛金の時効についてまとめると以下のようになります。

【売掛金の時効までの年数】
・2020年3月31日以前に発生した売掛金:職種・債権の種類に応じて1~5年
・2020年4月1日以降に発生した売掛金:5年

なお、売掛金がいつ時効を迎えるかを正しく知るには、時効の起算日の捉え方を理解しておく必要があります。

【時効の期間が始まる起算日】
・支払期限の定めがある場合の起算日 → 支払期限の翌日から
・支払期限の定めがない場合の起算日 → 契約日の翌日から

この起算日を正しく把握し、売掛金の時効を成立させないように早急に動いていくことが重要です。

どうしても自社での回収が難しい場合は、債権回収代行もうまく活用するようにしましょう。

また、売掛金が回収不能になるリスクを軽減しつつ資金調達も行えるファクタリングというサービスもあります。
売掛金を早期に資金化(現金化)し未回収リスクを軽減できる「ファクタリング」の基礎知識はこちらの記事をご覧ください。

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監修者

株式会社ビートレーディング 編集部編集長

筑波大学大学院修士課程修了後、上場企業に勤務。不動産ファンドの運用・法務を担当した後、中小企業の事業再生や資金繰り支援を経験。その後弊社代表から直々の誘いを受け、株式会社ビートレーディングに入社。現在はマーケティング・法務・審査など会社の業務に幅広く携わる。

<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者