資金ショートとは、手持ちの現金が不足して、会社の運転資金が足りなくなってしまう状況です。
赤字や黒字などの経営状況に関わらず発生し、最悪の場合は倒産リスクも存在します。
そのため普段から対策に取り組み、資金ショートが発生しないように心がけることが重要です。
ただし、実際に発生してみないと想像しづらい部分もあるため、
「資金ショートって、そもそもどうして発生するのだろう?」
「資金ショートを予防するためには、何に気をつければ良いのかな?」
と感じている方も多いでしょう。
資金ショートは経費の削減や、キャッシュフローの把握などの対策により予防できますが、事前に要因や対処法を把握しておくことも必要です。
そこでこの記事では、以下のような内容について詳しく解説します。
この記事でわかること |
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・資金ショートの概要 ・資金ショートの発生リスク ・資金ショートの主な発生要因 ・資金ショートの予防方法 ・資金ショートが発生しそうな場合の対応策 |
資金ショートの予防方法から、発生しそうな場合の対応策まで紹介しますので、ぜひ最後までご一読ください。
目次
1.資金ショートとは
資金ショートとは、手持ちの現金が不足して、会社の運転資金が足りなくなってしまう状況です。
資金ショートの「ショート」とは「足りない」という意味の英単語shortに由来しており、資金がショート、つまり枯渇してしまうことを指します。
では、資金が不足するとどのような問題が生じるのでしょうか。
会社を動かす以上、取引先への支払いや給与の支払い、備品の購入等のために資金が必要になります。
しかし資金ショートに陥ると、支払いに使える現金がなくなってしまうため、各種支払いができず、結果として経営が困難になってしまうのです。
「売上は発生しているけれど、財布に一銭も現金が入っていない状態」
と考えると、わかりやすいかもしれません。
赤字の企業のみが発生するイメージがあるかもしれませんが、資金ショートは取引先の急な倒産や株価の暴落などの、突発的な要因で発生することが多いです。
ピーエムジー株式会社が実施した「経営者を対象とした資金ショートに関する調査」によれば、52.9%もの人が「資金ショートを起こした経験がある」と回答しています。
また資金ショートの発生経験のある企業のうち79.2%の会社が、「突発的な要因」によって発生したと答えています。
出典:ピーエムジー株式会社「経営者を対象とした資金ショートに関する調査」
「5割以上の企業が資金ショートを経験している」と考えると、かなり高確率だと感じますよね。
資金ショートはいつどの会社でも発生してもおかしくなく、業種を問わず起こり得る可能性があります。
では、資金ショートは主にどのような場合に発生するのでしょう。
次項では、資金ショートが発生する主な5つの要因を紹介します。
2.資金ショートが発生する5つの要因
先述の通り、資金ショートは会社の経営状況に関わらず、いつ発生してもおかしくありません。
資金ショートの発生を予防するためには、事前に主な要因を把握しておくことも重要です。
ここでは、資金ショートの5つの発生要因を紹介します。
<資金ショートの主な発生要因> ・売上の急激な減少 ・コストの増加 ・売掛金の入金遅延や取引先の倒産 ・災害等の外的要因 ・資金繰りの管理不足 |
2-1.売上の急激な減少
売上が順調に発生していても、何らかの要因によって突然減少することで、資金ショートする可能性があります。
売上の急激な減少は、いつ発生するかわかりません。
主に、以下のような理由で低下する可能性が高いです。
<売上の減少理由> ・不祥事が発生した ・競合の会社の売上が急激に伸びた ・会社や商品のイメージが低下した |
売上の減少は、いつ発生するか予想することができません。
よって普段から備えて、資金を確保しておくことが重要です。
2-2.コストの増加
売上はあるものの、コストが増えて利益が圧迫され、現金がなくなるケースもあります。
コストの増加も売上の急激な増加と同様に、突発的に発生する可能性が高いです。
いきなりコストが増加する理由は様々ですが、具体的には以下のようなものが考えられるでしょう。
<コストが増える理由> ・燃料費や材料費の増加(高騰) ・施設や機材等の修繕費が発生 ・損害賠償金の支払い ・車など高額な備品の購入 |
たとえば燃料費が突然増加すれば、支払額が増えることになるため、従来と同額の利益を出していた場合でも、急に利益が少なくなってしまいます。
毎月の売上が100万円・燃料費が10万円だとして、売上額が変わらないのに燃料費が急に20万円になったとすれば、利益が10万円分減少することになってしまいますよね。
上記はやや極端な例ではありますが、このようにコストは何らかの要因によって、急に増加する可能性があります。
そのため出ていくお金ばかりが増えて、結果として現金がなくなってしまうのです。
2-3.売掛金の入金遅延や取引先の倒産
売掛金の入金遅延や取引先の倒産も、資金ショートの発生要因の1つです。
入金遅延が続くと手元に資金が入るタイミングが遅くなるため、会社の資金がどんどん少なくなっていって、結果として資金ショートが発生してしまいます。
また取引先が倒産した場合も、売掛金を回収できないため、資金ショートの可能性が高くなります。
入金遅延や取引先の倒産も突発的に発生するものなので、気がついたときには資金ショートが発生してしまうのです。
2-4.災害等の外的要因
災害等の外的要因によって、資金ショートが発生するケースも多いです。
外的要因とは、たとえば以下のような台風や地震などのトラブルを指します。
<外的要因の例> ・感染症の流行 ・台風 ・地震 ・火事 ・サイバー犯罪 |
特に近年は、新型コロナウイルスの流行により資金ショートを起こす事例も複数見られています。
急な発注の停止や、時短営業等により利益が急激に減少した結果、手元の現金が不足し、資金ショートが発生してしまうのです。
災害も発生するタイミングが掴めないため、黒字経営でも突然資金ショートを起こす可能性があります。
2-5.資金繰りの管理不足
その他にも内的要因として、資金繰りの管理不足が挙げられます。
資金繰りに関する管理が不十分だと、入金のタイミングや出金のタイミングを把握しきれていないため、資金ショートが発生する可能性があります。
入出金予定を正確に把握していれば、内的要因で資金ショートが発生する可能性は低いです。
しかし管理がずさんだと「支払いをしようとしたらお金がなかった」といった状態になりかねません。
よって気がついた時には、現金がゼロになっており、資金ショートが発生してしまうのです。
3.資金ショートの発生リスク
では、資金ショートが発生した場合はどのような状況になってしまうのでしょうか。
資金ショートの最も大きなリスクは、倒産です。
資金ショートの発生時はありとあらゆる支払いが困難になるため、会社の信用がなくなり、結果として倒産につながってしまうのです。
しかし、そうは言っても、具体的にどのようなトラブルが発生するのかイメージしづらいかもしれません。
資金ショートの発生時には、たとえば以下のような状況となり、黒字倒産の可能性もあります。
<資金ショート発生時のリスク> ・従業員へ給与の支払いができない ・取引先への支払いができない ・銀行への返済ができない |
とにかく「支払いに使えるお金がないため、全ての返済や支払いができない状態」と考えてください。
また運良く倒産を避けられた場合でも、「資金繰りがうまくいっていない会社」とのイメージがついてしまい、会社の信用を喪失してしまうケースもあります。
そのため資金ショートは、あらかじめ対策を行い、避けるべきといえます。
<資金ショートの発生事例の確認もおすすめ> 「東京商工リサーチ」では、資金ショートを起こした企業の事例を公表しています。 資金ショートが発生した経緯まで詳しく記載されているので、事例を確認すれば、資金ショートのリスクや発生のきっかけなどを把握できるでしょう。 たとえば2019年1月9日に発表された記事では、「オリンピックインホテル」の権利分譲で有名となった五輪建設(株)の資金ショート事例が記載されています。 同社は平成3年の資金ショート後も事業を継続していましたが、再度資金ショートを起こし、2019年1月に行き詰まりを表面化しました。 同サイトでは他にも資金ショートの事例を紹介しているため、資金ショート発生時の状況や、経緯に興味がある場合はぜひチェックしてみてください。 |
4.資金ショートの予防方法
資金ショートは突発的な要因で発生するケースもあるものの、普段から意識することで予防できます。
常に資金繰りに気をつけていれば、発生しそうになっても、早い段階で予防できる可能性が高まります。
<資金ショートの予防方法> ・経費の削減 ・在庫の回転率を高める ・請求漏れや未入金がないか常に確認する |
ここでは、普段から取り組める3つの予防方法を紹介します。
4-1.経費の削減
まずは、経費の削減を行いましょう。
会社の資金を少しでも残すには、経費の削減がもっとも手っ取り早い方法です。
以下のような点は、特に削減しやすいポイントです。
まずは毎月の内訳を確認して、削減できそうな項目を探してみましょう。
<経費の削減ポイント> ・接待交際費 ・テナント料(家賃) ・水道光熱費 ・役員報酬 ・広告宣伝費 |
特にテナント料などの固定費は、毎月発生するお金です。
会社の資金繰りがうまくいっていない場合は、より小さいオフィスに引っ越す、フロアを移動してテナント料の安い部屋に移るなど、少しでも現金を確保できるようにしましょう。
もしテレワークが中心となり出社する社員が少ない場合は、今より狭いオフィスに引っ越すことで、固定費を大幅に削減できる可能性もあります。
「そんな少ないお金を削っても意味はあるの?」
と感じるかもしれませんが、些細な節約でも、まとまると10万円以上もお金が浮くかもしれません。
無理をして減らす必要はありませんが、一度無駄がないか見直しを行い、使用していないものや削っても問題ないものは、現金確保のために省いておきましょう。
4-2.在庫の回転率を高める
在庫の管理には、在庫を保管する倉庫の運営コストなど、多くの費用がかかります。
そのため不要な在庫は売却して、回転率を高めましょう。
また不要な在庫を多く抱えている場合は、仕入れの量が必要以上に多く、ロスを発生させている可能性があります。
特に賞味期限があるものは、売却先が決まるまでにも時間がかかるため、仕入れすぎると多額のマイナスが発生してしまいます。
できる限り適切な量の在庫を保持するように心がけ、余分な在庫を持たないようにして、在庫の回転率を高めましょう。
4-3.請求漏れや未入金がないか常に確認する
請求漏れや未入金があると、結果として資金ショートにつながってしまいます。
特に取引先が多い場合は、管理が疎かになり、請求漏れや未入金が発生している可能性もあります。
せっかく仕事をしたのに、請求し忘れるとそのまま放置されてしまうかもしれません。
また未入金の場合も、こちらから声をかけない場合は、いつまで経っても振り込まれないケースもあります。
入出金の管理を正確に行い、請求漏れや未入金がないか常に確認することが重要です。
5.資金ショートが発生しそうな場合の対応策
ここまで、資金ショートの予防方法について紹介しました。
しかしいくら資金ショートに気をつけていても、「2.資金ショートが発生する5つの要因」で紹介した通り、外的要因によって突然発生してしまうこともあります。
そのため、発生しそうな場合の対応策の把握も欠かせません。
ここでは、緊急度が高い場合に試したい4つの対応策を紹介します。
試したい順番に沿って紹介するので、資金ショートが発生しそうになってから焦らないように、事前に把握しておくと良いでしょう。
5-1. 【方法①】保険料や税金の支払い延長を申請する
まずは、保険料や税金の支払い延長を申請しましょう。
各種保険料や税金は、支払い延長を申請することで、支払いを待ってもらうことができます。
保険料や税金などは、支払いが遅れると督促状が来たり、差し押さえをされたりするイメージがあるかもしれません。
しかし事前に支払いが難しいことを相談すれば、支払いの分割や一時保留ができるケースも多いです。
ただし督促状などが来てからの相談はなるべく避け、「支払いが難しそうだ」と感じた時点で行動するようにしましょう。
<支払延長の申請方法> 保険料や税金の支払いを延長してもらいたい場合は、管轄の税務署や自治体にある、担当窓口を訪ねましょう。 窓口に行き、会社の資金繰りが悪化して支払いが難しい旨を伝えることで、支払いのタイミングや支払回数などの相談にのってもらうことができます。 会社のありのままの状態を伝えることで、支払いの分割や一時保留などにより、今すぐに支払わずに済むようになります。 またその際、今後の支払い計画や目処を聞かれることもあるので、事前に考えておくことがおすすめです。 |
5-2. 【方法②】遊休資産の売却を行う
会社が所有する遊休資産の売却を行うことも、対応策の1つです。
たとえば、以下のような遊休資産は手放して、現金確保につとめましょう。
<遊休資産の例> ・投資目的の不動産 ・ゴルフの会員権 ・使用していない土地 |
遊休資産の売却は現金確保だけでなく、固定資産税や管理費等のコストの削減にも役立ちます。
売却することで、管理にかかっていた余分な費用がなくなり、会社全体の経費削減も可能になります。
売っても問題のない資産は、経費削減のためにも売却してしまいましょう。
5-3. 【方法③】ファクタリングを利用して資金を調達する
ファクタリングは、現金の調達に最も有効的な方法です。
ファクタリングとは、売掛金を売却し、通常の支払期日より前に資金化する資金調達方法のことです。
「資金の調達」と聞くと、銀行からの融資をイメージするかもしれません。
しかし資金が枯渇している状態で銀行からの融資を受けるのは難しいだけでなく、資金調達までには1か月程度の時間がかかってしまいます。
一方ファクタリングの場合は、申込日に資金を受取ることも可能です。
ファクタリングには大きく2つの種類があり、2者間ファクタリングを利用した場合は、取引先に知られることなく資金を調達できます。
・2者間ファクタリング:ファクタリング会社と利用者の2者で契約するタイプ。売掛先への連絡が不要。 ・3者間ファクタリング:ファクタリング会社と利用者、売掛先(取引先)の3者で契約するタイプ。 売掛先へファクタリングを承諾してもらう必要あり。 |
手元の資金を増やし資金ショートを防ぐ方法「ファクタリング」について詳しくはこちらの記事をご覧ください。
ファクタリング会社によっては、買い取りの見積りサービスを提供している場合もあります。
気になるファクタリング会社がある場合は、申込方法などを含めて問い合わせてみてください。
ちなみに大手のファクタリング会社については、以下の記事で詳しく紹介しています。
大手企業20社の特徴や選び方について解説していますので、ファクタリング会社についてより詳しく知りたい方は、ぜひあわせてご一読ください。
「大手優良ファクタリング会社のおすすめ20選|選び方も解説」
5-4. 【方法④】銀行や取引先へ支払い延長を依頼する
銀行や取引先などに、支払い延長を依頼する方法も対策の1つです。
当然ですが、支払期限を延長すれば、手元の現金をある程度確保しておくことができます。
支払いを遅らせることで、入金までの少しの間をつなぎ、資金ショートの発生リスクを低下できるでしょう。
しかし支払いの延長は、取引先との信用問題に発展するケースもあります。
そのため他の方法を試してみたものの、どうしてもうまくいかない場合にのみ実施することをおすすめします。
1章でも紹介した、ピーエムジー株式会社が実施した「経営者を対象とした資金ショートに関する調査」によれば、43.2%の人が「資金ショート予防の対策により信用を失った」と回答しています。
また支払い延長を依頼したことにより、商品受注が減少した、支払い条件が厳しくなったとの回答もあり、資金ショートと信用問題は切り離せません。
出典:ピーエムジー株式会社「経営者を対象とした資金ショートに関する調査」
ただし、資金ショートが発生すれば会社が倒産する可能性も高いため、支払い延長は最後の手段として取り組むことがおすすめです。
<支払いはなるべく大口の取引先から支払う> もし限られた資金で支払いを行う場合は、なるべく大口の取引先から行いましょう。 上記の通り、支払い延長をすると場合によっては信用を失い、取引停止になってしまうケースもあります。 そのため、取引停止になった際の影響が大きい会社の支払いを優先して、影響が少ない会社を後回しにすることで、資金ショート予防後の被害を最小限にできます。 たとえば以下の2社があった場合、「A社の支払いを優先した方が被害が少なそうだ」と感じるのではないでしょうか。 ・10年以上取引をしており、会社になくてはならない製品を製造しているA社 ・最近取引をはじめたばかりで、新規事業に関連する製品を製造しているB社 まずは会社の存続を優先し、限られた資金でどこから支払いを行うのか、優先順位を決めることをおすすめします。 |
6.まとめ
この記事では、資金ショートの概要や予防法について紹介しました。
資金ショートは、手元の現金が全てなくなり、あらゆる支払いが困難になる状況を指します。
会社の経営状態に関わらず発生するほか、災害などの外的要因によっても起こるため、いつ発生してもおかしくありません。
そのため、日頃から対策を行うだけでなく、発生しかかった場合の対処法を理解しておく必要があります。
以下のような対策を行い、資金を手元に残しておけるように心がけましょう。
<資金ショートの予防方法> ・経費の削減 ・在庫の回転率を高める ・請求漏れや未入金がないか常に確認する |
また万が一発生しかかった場合には、以下のような対処法が効果的です。
<資金ショートの対処法> 1.保険料や税金の支払い延長を申請する 2.遊休資産の売却を行う 3.ファクタリングを利用して資金を調達する 4.銀行や取引先へ支払い延長を依頼する |
この記事を参考に、あなたが資金ショートに対して正しい対処法を実施できることを願っています。
筑波大学大学院修士課程修了後、上場企業に勤務。不動産ファンドの運用・法務を担当した後、中小企業の事業再生や資金繰り支援を経験。その後弊社代表から直々の誘いを受け、株式会社ビートレーディングに入社。現在はマーケティング・法務・審査など会社の業務に幅広く携わる。
<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者