親事業者の売掛金をファクタリングできるのか、悩んでいる方もいるでしょう。
結論として、下請事業者は、親事業者の売掛金をファクタリングできます。
下請事業者が資金調達する権利は、下請法で守られているためです。
親事業者が下請事業者に対して不当な扱いをしないように、下請法ではさまざまな規定を定めています。
本記事では、下請法とファクタリングの関係を詳しく解説します。
ファクタリングに関連する禁止事項を押さえた上で、ファクタリングの利用を検討してください。
売掛金の資金化(現金化)サービス「ファクタリング」の仕組みや注意点については「ファクタリングの基礎知識」の記事をご覧ください。
1.下請法とはどのような法律なのか
下請事業者の権利を守るために、下請法ではさまざまな規定があります。
下請法に関して、施行された目的や適用条件に触れつつ解説します。
自社の取引に下請法が適用されるか確認しましょう。
1-1.下請法の目的
下請法の正式名称は「下請代金支払遅延等防止法」です。
下請法の目的は、親事業者が下請事業者に対して不当な扱いをしないように取り締まることです。
下請事業者に対して発注する親事業者は、取引において有利になりやすい立場といえます。
しかし、立場を利用して無理な取引を強いることは、下請法で禁止されています。
例えば、下請代金の一方的な減額、代金の支払い遅延、不当な要求などは、下請法違反になる行為です。
公正取引委員会や中小企業庁は、毎年、書面調査で下請法の遵守状況を確認しています。
また、必要と判断されれば、親事業者への立入検査も実施されます。
下請法に違反したとして公正取引委員会から勧告を受けた場合、親事業者は速やかに従わなくてはいけません。
また、違反行為の内容は、公正取引委員会のサイトで親事業者の会社名とともに公開されます。
1-2.下請法の適用条件
請け負った仕事に対して下請法が適用されるかは、発注先と委託先の資本金額と、取引の内容により決まります。
まず、発注先の資本金が1,000万円超(1,000万1円以上)の場合、委託先の資本金が1,000万円以下なら下請法が適用される可能性があります。
ただし、委託先の資本金が1,000万円超の場合は、発注先の資本金が3億円超(3億1円以上)でなければ下請法の対象にはなりません。
なお、下請法の対象となる取引は以下の4つです。
● 製造委託:物品の製造や加工の委託
● 修理委託:物品の修理の一部を委託
● 情報成果物作成委託:ソフトウェアや映像コンテンツ、各種デザインなどの作成作業の委託
● 役務提供委託:各種サービスの委託
1-3.下請法とファクタリングの関係
前述のとおり、下請法では下請事業者に対する不当な扱いを防止するために、親会社が遵守すべき禁止事項が定められています。
下請法が適用される取引ならば、下請事業者は親事業者の売掛金を安心してファクタリングできます。
下請法で定められた義務と禁止事項があれば、ファクタリングを理由に、親事業者が下請事業者に対して不当な扱いをすることは認められないためです。
ファクタリングを親事業者に知られても以降の取引に影響しないとわかれば、安心して資金調達を実行できるでしょう。
なお、親事業者の禁止事項については後ほど詳しく解説します。
2.下請法で親事業者に課せられる4つの義務と11の禁止事項
下請法では、下請事業者の権利を守るために、親事業者に対し4つの義務と11の禁止事項が定められています。
ファクタリングに限らず不当な扱いを受けなくて済むように、詳細を理解しておきましょう。
2-1.親事業者の義務
下請法にもとづき仕事を発注する親事業者には、以下で解説する4つの義務が課せられています。
ここでは、それぞれの概要を解説します。
2-1-1.書面の交付義務
下請法第3条では、親事業者に対して「書面の交付義務」を定めています。
親事業者が発注をする際は、発注内容などを記載した書類(3条書面)を下請事業者に交付しなければなりません。
3条書面に記載する項目は、親事業者と下請事業者の名称、委託内容、納品物の受領日や場所、検査完了日などを含む12項目です。
書面の様式は定められていないため、規定の内容が網羅されていれば問題ありません。
口頭のみでやり取りすると「言った、言わない」のトラブルに発展する恐れがあります。
委託内容を書面で交付しておけば取引内容が明確になり、トラブルの発生を未然に防ぐことが可能です。
2-1-2.書類の作成・保存義務
下請法第5条では、親事業者に対して「書類の作成・保存義務」も定めています。
親事業者は下請取引が完了した後、取引内容を記載した書類(5条書面)を作成し、2年間保存しなければなりません。
取引内容として記載する項目は、納品物の内容や下請代金の金額などです。
記録に残した下請取引の内容は、公正取引員会や中小企業庁が調査や検査を実施する際に確認します。
取引内容が保存されていれば、迅速で正確な調査が可能になります。
3条書面の写しを保存していても、5条書面とは見なされないところがポイントです。
5条書面に記載する内容の多くは、3条書面と重複しています。
ただし、5条書面には、実際に支払った下請代金の額や支払手段などを含む取引の経緯が記載されていなければなりません。
2-1-3.下請代金の支払期日を定める義務
「下請代金の支払期日を定める義務」が設定された理由は、親事業者が正当な理由なしに支払期日を遅く設定することを防ぐためです。
納品したにもかかわらず売掛金が長期的に支払われなければ、資本金が少ない下請事業者は資金繰りが苦しくなってしまいます。
親事業者が下請事業者に代金を支払うときは、検査の有無にかかわらず、納品から60日以内に支払期日を定めなくてはいけません。
例えば、1か月単位で締め日を設定している場合は、月末締めの分は翌月の末日が支払期日となります。
また、支払期日を定めなかったときは、実際に納品された日が支払期日になります。
支払期日や実際に支払った日は、3条書面や5条書面への記載が必要です。
2-1-4.遅延利息を支払う義務
下請代金支払遅延等防止法第4条の2 では、「遅延利息を支払う義務」について定めています。
前述のとおり、親事業者は、納品から60日以内に売掛金を支払わなければなりません。
仮に親事業者が支払期日までに代金を支払わなかった場合は、下請事業者に対して遅延利息を支払う義務が生じます。
遅延利息の額は、未払金額に対し「納品がなされた日から起算して60日を経過した日から、実際に支払が行われる日までの期間」に応じて年率14.6%を乗じた額です。
親事業者と下請事業者で遅延利息に対する合意があっても、年率14.6%が優先的に適用されます。
このように、下請事業者は代金の支払いで不利にならないように、下請法によって守られているのです。
2-2.親事業者の禁止行為
下請法では、親事業者が行ってはならない11の禁止事項が定められています。
たとえ親事業者と下請事業者の間に合意があっても、禁止事項に定められていれば下請法違反です。
警告や改善指導が行われ、下請事業者が多大な不利益を被っていると見なされる場合は、勧告を受け会社名が公表される場合もあります。
親事業者の禁止事項は、以下のとおりです。
● 受領拒否
● 下請代金の支払遅延
● 下請代金の減額
● 返品
● 買いたたき
● 購入・利用強制
● 報復措置
● 有償支給原材料等の対価の早期決済
● 割引困難な手形の交付
● 不当な経済上の利益の提供要請
● 不当な給付内容の変更及び不当なやり直し
上記11の禁止項目のうち、ファクタリングに関連するものを次の見出しで詳しく解説します。
3.ファクタリングに関連する下請法の禁止事項
ファクタリングに関して押さえておきたい下請法の禁止事項は、以下の5つです。
● 下請代金の支払遅延
● 下請代金の減額
● 返品
● 報復措置
● 有償支給原材料等の対価の早期決済
それぞれ詳細を解説します。
3-1. 下請代金の支払遅延
下請代金の支払期日の設定は、親事業者の義務です。
支払遅延が起きると下請事業者の資金繰りが悪化する恐れがあるため、下請法では支払遅延を厳しく規制してきました。
親事業者は、納品日から起算して60日以内に下請代金を支払う必要があります。
また、支払遅延は基本的に認められません。
ファクタリングを利用するには審査があり、売掛先の信用力や売掛金が回収できるかどうかが重要視されます。
売掛先の経営状況に問題がなく、支払期日に支払われることが分かっていれば、ファクタリングの審査に通る可能性が高くなります。
また、2者間ファクタリングと3者間ファクタリングがあります。
2者間ファクタリングでは、売掛先の承諾を親事業者に対して得る必要がない代わりに、支払期日に入金された売掛金を自らファクタリング会社に支払わなくてはなりません。
ファクタリング会社への入金が遅れると売掛先に債権譲渡通知がされてしまう可能性があります。
原則として支払期日より入金が遅れることがないと分かっていれば、利用後のファクタリング会社への支払いもスムーズに行うことができ、安心してファクタリングを利用できます。
ファクタリングの支払いについて詳しくは「ファクタリングの支払いとは?基本の仕組みやメリット・デメリットを解説 」の記事をご覧ください。
3-2.下請代金の減額
親事業者が商品やサービスを発注した際に決めた下請代金は、発注後の減額が認められません。
たとえ下請事業者の合意があっても、減額した額を入金すると下請法違反となります。
そのため、下請事業者が親事業者の売掛金をファクタリングしても、ファクタリングを理由に下請代金を減額されるリスクはありません。
下請代金の減額が認められるのは、下請事業者に責任がある場合のみです。
納品物が不良品だった、納期が大幅に遅れたなどの理由がない限り、親事業者は下請代金を減額できません。
原材料価格の下落を理由とした減額や、端数の切り捨てなども禁止されています。
また、これまでより安い新単価が適用されたとして、適用された時期から遡って安い新単価を適用する行為も認められていません。
3-3.返品
納品された商品に問題があれば、親事業者は速やかに返品する必要があります。
返品が認められる理由には、商品に欠陥があった、依頼したものと仕様が異なっていた、著作権を侵害していたなどのケースです。
しかし、親事業者の都合で下請事業者に返品することは禁止されています。
返品された分は売掛金に計上されないため、不当な返品が認められると下請代金が減ってしまうためです。
例えば、商品が売れ残ったからといって、親事業者の都合で下請事業者に返品することは禁止されています。
そのため、売掛金をファクタリングした後に、返品により売掛金が減ってしまうといったリスクは基本的にありません。
請求書の金額どおりに入金されることがほぼ確実なので、ファクタリング利用後に売掛金の送金で困ることもないでしょう。
3-4.報復措置
親事業者による報復措置も、下請法では禁止事項とされています。
報復措置とは、親事業者の下請法違反行為を公正取引委員会や中小企業庁に知らせたとして、下請事業者に対して不当な扱いをすることです。
例えば、明確な理由なしに取引数量を減らされたり、取引を停止されたりしたときは、報復措置の可能性が高いといえるでしょう。
報復措置は下請事業者の事業に大きく影響を及ぼし、ときには倒産に追い込む場合もあります。
下請法の規定により、下請事業者がファクタリングを利用したことを理由に不当な扱いをされた場合は、公正取引委員会や中小企業庁へ報告可能です。
万一のときは速やかに報告する心構えをして、ファクタリングを利用すると良いでしょう。
3-5.有償支給原材料等の対価の早期決済
「有償支給原材料等の対価の早期決済」とは、親事業者が原材料を下請事業者に支給する場合に、原材料費を下請代金の入金よりも先に支払わせる行為のことです。
下請代金から控除(相殺)する場合も、早期決済と見なされます。
親事業者が原材料を大量調達して下請事業者に支給する理由は、品質の維持・確保や、大量購入によるコスト削減などです。
原材料費の回収が早期に行われると、下請事業者の資金繰りが悪化する恐れがあります。
しかし、下請法により有償支給原材料等の対価の早期決済が禁止されているため、売掛金は減額されません。
従って、下請事業者はファクタリングで十分な額の資金調達が可能です。
4.ファクタリングで親事業者の売掛金を早期資金化
親事業者の売掛金は、ファクタリングで早期資金化(現金化)することが可能です。
ファクタリングのメリットも解説するので、資金繰りの改善に向けファクタリングを検討しましょう。
4-1.親事業者の売掛金はファクタリングできる
親事業者の売掛金をファクタリングして、支払期日よりも前に資金化(現金化)しても問題ありません。
ファクタリングを利用することで下請事業者は資金繰りを改善できる可能性があり、経済産業省中小企業庁も資金調達手段の1つとして認めています。
資金繰りが厳しくなりがちな下請事業者こそ、ファクタリングの活用が有効です。
事業規模が小さかったり、赤字経営だったりする状況でも、ファクタリングなら資金調達できる可能性があります。
ファクタリングの審査では、利用者よりも売掛先の信用が重視されるためです。
親事業者は事業規模が大きい会社が多く、信用力も高いため、ファクタリングの審査で有利になりやすい傾向があります。
4-2.親事業者の売掛金をファクタリングするメリット
親事業者との取引は、下請事業者が不当な扱いを受けないように下請法で規制されています。
親事業者が下請法を遵守する限り、減額や支払遅延などが発生しにくいと考えられるでしょう。
仮にファクタリングを利用したことを知っても、親事業者が下請事業者に対して不当な扱いをすることは禁止されています。
下請法の内容を理解していれば、下請事業者は安心してファクタリングを利用できます。
また、資金調達までがスピーディーなところも、ファクタリングを利用するメリットです。
資金繰りを改善するために、融資を検討する下請事業者も見られます。
しかし、融資の審査には時間がかかるため、必要なタイミングで資金が間に合わないかもしれません。
利用者の経営状態が厳しければ審査に落ちる場合もあります。
その点、ファクタリングは審査から入金までのスピードが融資よりも早く、ファクタリング会社のなかには最短即日入金が可能なところも少なくありません。
即日入金ファクタリングについて詳しくは「【即日対応可能】おすすめのファクタリング会社15選!利用先の選び方を解説 」の記事をご覧ください。
5.まとめ
発注先と自社の資本金と取引内容によっては、下請法が適用される場合があります。
下請法では、親事業者が下請事業者に不当な扱いをしないように、義務や禁止事項を設けています。
下請法の規定に従えば、親事業者の売掛金をファクタリングで早期資金化(現金化)することが可能です。
ファクタリングの事実を親事業者に知られても、下請事業者は不利益を被らずに済みます。
下請代金の支払遅延や減額、報復措置などを受ける心配がないと分かっていれば、資金繰りの改善に向け、安心してファクタリングを利用できるでしょう。
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<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者