政府は、2026年度末までに紙の約束手形を廃止し、全面的に電子化する方針を打ち出しています。
約束手形を利用している場合、手形割引により支払期日より前に資金を得られます。
そのため手形割引は資金調達や資金繰りの改善のためによく利用されてきました。
約束手形が廃止されても電子記録債権(でんさい)へ移行すればでんさい割引による資金調達が可能ですが、電子記録債権を導入していない企業も少なくありません。
そのような状況を受け、約束手形が廃止された後の資金調達の方法としてファクタリングが注目されています。
この記事では、約束手形の廃止による影響に触れたうえで、ファクタリングでの資金調達について解説します。
約束手形廃止後、どのように資金調達をするべきか検討している場合はぜひ参考にしてください。
目次
1.約束手形とは
そもそも約束手形とは、どのようなものなのでしょうか。
廃止後の影響について知るには、約束手形の特徴をよく理解している必要があります。
ここでは、約束手形の概要について解説します。
1-1.約束手形による代金決済
約束手形とは、特定の期日になったら代金(売掛金)を支払うという約束のためにやり取りされている有価証券です。
商取引における決済手段の1つとして利用されています。
代金を支払う側(振出人)が代金を受け取る側(受取人)に現金で支払う代わりに約束手形を発行すれば、代金の決済は完了です。
約束手形は、特定の期日になると金融機関で換金できます。
振出人は約束手形を発行する時点で口座に残高がなくても振り出しできますが、期日に銀行口座の残高が足りない場合、不渡りになります。
不渡りになると、企業としての信用力が著しく低下するため、取引停止などの影響は避けられません。
なお、約束手形は第三者への譲渡も可能です。
譲渡するには、約束手形の裏面に氏名を記載したうえで押印する必要があります。
1-2.約束手形を利用する目的
約束手形は、支払いの先延ばしを目的として利用される場合が多い決済方法です。
約束手形を振り出す時点では現金を用意しなくて済むため、一定期間は現金での支払いについて猶予を受けられます。
一方、受取人は受取手形の決済日までは現金を受け取れません。
手形の振出日から決済日までの期間は「支払いサイト(手形サイト)」と呼ばれています。
30日(1か月)単位で指定するケースが一般的です。通常、支払いサイトは、1か月~4か月(120日以内)の期間で設定されます。
支払いサイトが長いと、代金(売掛金)を受け取る側は実際に現金を得られるまでの期間が長くなります。
代金を支払う側に余裕が生まれる反面、代金を受け取る側は資金繰りが苦しくなる恐れがあるため、注意が必要です。
1-3.約束手形による資金調達
すでに触れたとおり、約束手形は第三者へ譲渡することも可能です。
例えば、受け取った約束手形を代金の支払いに充てることもできます。
また、銀行や手形割引業者などに約束手形を売却すれば、決済日よりも早いタイミングで換金することも可能です。
換金する際は一定の割引料が引かれるため、この方法は手形割引と呼ばれています。
支払いサイト(手形サイト)が長いと資金化(現金化)するまでに時間がかかりますが、手形割引を利用すれば早く資金を確保することができます。
ファクタリングと手形割引の違いについて詳しくは、「ファクタリングと手形割引の違いとは?それぞれのメリット・デメリット」の記事をご覧ください。
2.約束手形の廃止が検討されている理由
約束手形の発行残高は減少傾向にありますが、現在でも商取引の決済手段として利用されています。
この状況で、政府はなぜ2026年度末までに約束手形を廃止する方針を打ち出したのでしょうか。
ここでは、約束手形の廃止が検討されている理由について解説します。
2-1.支払いサイトが長くなりやすいため
企業同士のやり取りは、掛け取引がほとんどです。
掛け取引とは、商品やサービスが提供されるタイミングに合わせて代金(売掛金)を支払うのではなく、一定期間に購入した商品やサービスの代金を後日まとめて支払う方法です。
現金で決済する場合、支払期日は翌月末が基本となっています。
遅くとも2か月以内に支払うケースが一般的です。
一方、約束手形を利用する場合、現金振り込みよりもさらに支払期日を遅らせることが可能です。
約束手形は代金を支払う側にとって大きなメリットがある反面、代金を受け取る側にとってはデメリットが多い決済方法です。
代金を受け取る側の企業の資金力が特に乏しければ、支払いサイトの先延ばしにより資金繰りが著しく悪化する恐れがあるでしょう。
そのような問題に対する懸念も、約束手形の廃止が検討されている理由の1つです。
2-2.手間やコストがかかるため
約束手形は課税文書に該当します。
記載金額が10万円未満であれば非課税ですが、10万円以上になると印紙の貼り付けが必要です。
振出人は納める印紙税額と同じ金額の収入印紙を購入し、約束手形に貼り付け、消印をしなければなりません。
また、約束手形は紙の有価証券であるため、受け渡す際には振出人から受取人に郵送する必要があります。
そのため、振出人には、郵送の手間とコストがかかります。
一方、受取人は約束手形を受け取ったら厳重に保管し、紛失や汚損しないよう注意しなければなりません。
このように、約束手形の運用においては、振出人と受取人の双方にさまざまな手間やコストが発生します。
一般的に紙の書類は利用されなくなってきており、約束手形についても電子決済への移行が推奨されている状況です。
3.約束手形に代わる決済手段は?
約束手形が廃止された場合、代わりにどのような決済手段を利用すればよいのでしょうか。
約束手形に代わる決済手段として、現金振り込みと電子記録債権が推奨されています。
それぞれの決済手段について解説します。
3-1.現金振り込み
約束手形の代わりの決済手段としては、原則として現金振り込みが推奨されています。
従来の約束手形による支払いは、代金(売掛金)を受け取る側にとって負担が大きい決済手段です。
現金振り込みによる売掛金の支払いを実現できれば、支払いサイトが短く代金を受け取る側の資金繰りが悪化するリスクを抑えられます。
インターネットバンキングを利用すると、代金を支払う側もわざわざ店舗やATMへ出向く必要はありません。
受け取る側も、支払日に現金の入金を確認できます。
3-2.電子記録債権
現金振り込みが難しい状況では、紙の約束手形に代わる決済手段として電子記録債権(でんさい)を利用するのも1つの方法です。
電子記録債権なら、約束手形の振り出し、譲渡、割引などの事務手続きにかかる負担を軽減できます。
紙の約束手形では印紙が必要になる場合もありますが、電子記録債権では金額にかかわらず印紙が不要です。
また、紙の書類をわざわざ郵送する手間やコストもかかりません。
電子記録債権を利用すれば、紙の約束手形を発行するよりもスムーズかつ少ない負担でやり取りができます。
電子記録債権について詳しくは「電子記録債権とは?活用場面やメリット・デメリットをわかりやすく解説」の記事をご覧ください。
4.約束手形の廃止による影響
約束手形が廃止されると、どのような影響が生じるのでしょうか。
代金(売掛金)を受け取る納入企業と発注企業では、それぞれ影響が異なります。
具体的にどのような影響があるか解説します。
4-1.納入企業にとってはメリットが多い
従来の約束手形による支払いでは掛け取引の支払いサイトに加えて手形の支払いサイト(手形サイト)が生じるため、商品やサービスを販売してから代金(売掛金)を実際に受け取れるまでの期間が長くなりがちです。
約束手形が廃止された場合、決済手段を現金振り込みに変更すると、納入企業は支払期日に現金を受け取れます。
長い支払いサイトの期間を待たずに資金を得られるため、資金繰りの悪化を防止できます。
また、手形割引を利用する機会もなくなり、代金から割引料を差し引かれず満額を受け取ることが可能です。
約束手形が廃止されれば納入企業の資金繰りの悪化を防ぐ効果を期待できるため、健全経営の実現につながります。
約束手形の廃止は、納入企業にとって大きなメリットがあるといえます。
4-2.発注企業の資金繰りが悪化する可能性がある
約束手形は、主に発注企業が代金(買掛金)を支払うタイミングを遅らせる目的で利用されてきました。
そのため、約束手形が廃止されると、発注企業は代金の支払いを先送りできなくなります。
遅くとも支払期日に現金で代金の全額を用意する必要があります。
資金繰りが厳しい企業の場合、約束手形を利用できないと資金繰りがさらに悪化するリスクがあるでしょう。
約束手形が廃止されれば支払期日に決済を完了できない企業が多く発生する可能性も懸念されています。
5.約束手形の廃止によるファクタリングへの影響
すでに触れているとおり、約束手形が廃止された場合の決済手段としては、現金振り込みまたは電子記録債権が推奨されています。
しかし現金振り込みを選択しても、請求書の発行後は支払期日まで売掛金が発生し、すぐに資金化(現金化)できるわけではありません。
請求書の発行から支払期日の間にまとまった資金が必要なときは、ファクタリングを利用して資金調達する方法もおすすめです。
約束手形の代替手段の1つとして推奨されている電子記録債権は、いまのところそれほど普及していません。
特に小規模事業者は、電子記録債権の導入を検討していない企業の割合が高くなっています。
そのため、約束手形が廃止された後の決済手段としてもあまり利用されない可能性が高いでしょう。
以上を踏まえると、売掛金の資金化(現金化)が可能なファクタリングは、手形割引に代わる資金調達の方法としてニーズが増えると考えられます。
ファクタリングで売掛金が資金化できる仕組みなどについて詳しくは、「ファクタリングとは?仕組みや種類・意味・注意点を簡単に解説!」の記事をご覧ください。
6.手形割引による資金調達とファクタリングの違い
手形割引とファクタリングでは、資金調達の方法としてどのような違いがあるのでしょうか。
ここでは、それぞれの違いについて詳しく解説します。
6-1.償還請求権
手形割引には、償還請求権が設定されます。
そのため、手形を振り出した企業が売掛金を支払えなくなれば、手形を受け取った企業(利用者)が売掛金を支払う義務が生じます。
手形割引は約束手形の譲渡ではあるものの、融資の一種です。
そのため、約束手形が不渡りになった場合、手形割引を利用した企業は手形を買戻す義務が生じます。
つまり、手形の決済が完了するまでは貸し倒れリスクを負うことになります。
一方、ファクタリングの契約では、基本的に償還請求権は設定しません(ノンリコース)。
そのため、ファクタリングの契約を交わした後に売掛先の資金繰りが悪化し売掛金が支払えなくなった場合でも、利用者は売掛先の肩代わりをせずに済みます。
仮に売掛先が倒産した場合も、利用者に支払い義務は生じません。
償還請求権がない契約(ノンリコース)について詳しくは「ファクタリングのノンリコースを解説!ウィズリコースとの違いやメリット・デメリットを解説」の記事をご覧ください。
6-2.審査基準
手形割引の審査では、手形割引を利用する企業(受取人)と約束手形の振出人の両方の支払い能力が確認されます。
手形割引を利用する企業の支払い能力が重要なのは、約束手形が不渡りになれば、手形を買戻す必要があるからです。
約束手形の振出人の支払い能力が十分でも、手形割引を利用する企業の経営に問題があれば手形割引を利用できない恐れがあります。
それに対してファクタリングの場合、審査で特に重視されるのは売掛先の信用力です。
売掛先の資金繰りが良好であれば、ファクタリングを利用する企業の経営状況が悪くても審査に通る可能性があります。
複数の売掛先があるなら、なるべく信用力が高い売掛先を選んでファクタリングの審査を受けると、資金調達できる確率が上がります。
ファクタリングの審査に通るポイントについては「ファクタリングの審査で断られた原因は?審査に通る5つのポイント」の記事をご覧ください。
6-3.資金調達までの日数
手形割引は銀行や手形割引業者などに依頼して資金調達する方法です。
資金調達にかかる期間は、一般的に1週間程度となっています。
手形割引業者によっては即日資金化(現金化)が可能なところもありますが、実際の状況や条件にもよります。
すぐに入金できるとは限らないため、個別の確認が必要です。
ファクタリングは、契約の仕方やファクタリング会社によって資金調達までの日数が異なります。
2者間ファクタリングなら、最短即日で入金できる可能性があります。
2者間ファクタリングでは利用者(利用会社)とファクタリング会社のみで契約するため、手続きがスピーディーに進むからです。
一方、3者間ファクタリングでは売掛先の承諾を得る必要があるため、2者間ファクタリングに比べ時間がかかります。
ファクタリングで資金調達できる日数について詳しくは「ファクタリングの入金日数はどれくらい?申し込みの流れを解説」の記事をご覧ください。
6-4.資金調達にかかるコスト
手形割引を利用する際にかかるコストは割引料があります。
銀行と手形割引業者は、それぞれ割引率が異なります。
割引率の目安は、銀行なら年利1%~5%程度、手形割引業者なら5%~20%程度です。
一般的には銀行のほうがコストを安く抑えられるでしょう。
ファクタリングを利用する場合は、売掛金から手数料が差し引かれます。
具体的な手数料の目安は、2者間ファクタリングなら8%~18%、3者間ファクタリングなら2%~9%となっています。
2者間ファクタリングと3者間ファクタリングを比較すると、2者間ファクタリングのほうが手数料は高めです。
2者間ファクタリングは、利用者とファクタリング会社の2社で契約し、売掛先に売掛金の存在等を直接確認することができないため、ファクタリング会社にとってはリスクが高く、手数料が高くなる傾向にあります。
6-5.売掛先の承諾
手形割引を利用するために売掛先の承諾は必要ありません。
そのため、手形割引を利用する事実を売掛先が知る可能性は低いでしょう。
ただし、でんさい割引は電子記録に残るため、売掛先にも知られてしまいます。
ファクタリングの場合は、2者間ファクタリングか3者間ファクタリングかによって売掛先の承諾が必要かどうか異なります。
まず、2者間ファクタリングは売掛先から承諾を得る必要がありません。
ファクタリングを利用する事実を売掛先に伝えなくて済むため、その後の取引にも影響が出にくいでしょう。
一方、3者間ファクタリングは売掛先も交えて契約するので、承諾を得る必要があります。
今後の売掛先との取引に影響することなく早期の資金調達を実現したいときは、2者間ファクタリングがおすすめです。
7.約束手形の廃止後はファクタリングでの資金調達がおすすめの理由
約束手形が廃止された後の資金調達方法として、ファクタリングがおすすめです。
ファクタリングにはさまざまなメリットがあり、スムーズな資金調達を実現できる可能性があります。
ここでは、ファクタリングによる資金調達がおすすめの理由について解説します。
7-1.売掛金を早期に資金化できる
約束手形が廃止されて現金振り込みが主流になると、売掛金が増える可能性があります。
売掛金の状態では現金を手元に確保できないため、資金繰りに支障が出る恐れがあるでしょう。
ファクタリングは売掛金を支払期日前に資金化(現金化)する方法です。
状況によっては最短即日で資金化できるので、すぐに資金が必要な場合にも利用できます。
ファクタリングで売掛金を資金化すれば、各種支払いや設備投資など必要なタイミングで資金を活用できて便利です。
7-2.融資を断られた場合も利用できる
自社の経営が悪化して融資による資金調達が困難な場合でも、ファクタリングなら問題なく利用できる可能性があります。
ファクタリングの審査で重視されるのは、売掛先の信用力だからです。
融資の審査では自社の信用力が重要ですが、ファクタリングなら自社の状況は審査に大きく影響しません。
融資を断られた場合の資金調達方法としてや融資がおりるまでのつなぎ資金としてもファクタリングはおすすめです。
7-3.貸し倒れリスクを軽減できる
前述のとおり、ファクタリングは償還請求権を設定せずに契約できます。
そのため、万一売掛先が倒産し売掛金を回収できなくなっても、ファクタリングを利用した企業が損失を補填する必要はありません。
このように、ファクタリングは貸し倒れリスクを軽減できるため、さらなる資金繰りの悪化を抑えられます。
貸し倒れリスクの回避を重視したい場合は、償還請求権のある融資など貸金による資金調達よりも償還請求権のないファクタリングのほうがおすすめです。
8.まとめ
約束手形は支払いサイトが長くなりやすい上に、手間やコストも多くかかります。
2026年度末を目途に廃止が検討されているのは、そのような事情からです。
約束手形が廃止された後は、現金振り込みや電子記録債権などで決済する方法が推奨されています。
現金振り込みに移行すると手形割引による資金調達はできなくなりますが、支払いサイトを短縮できる可能性があります。
それでも、資金繰りが厳しい場合は、売掛金を早期に資金化(現金化)できるファクタリングの利用も検討してみましょう。
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<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者