「回し手形ってどんなもの?」
「回し手形について詳しく説明してほしい。」
こんなお悩みをお持ちではありませんか?
回し手形がどんなものか、どんな仕組みなのかよく理解できていない人は多いと思います。
手形は、裏書することで他の人に譲渡することが可能な証券です。
回し手形とは、裏書して譲渡された手形のことで、一般的に「裏書手形」や「回し手形」と言います。
また、回し手形として第三者に手形を譲渡することを「裏書譲渡」と言います。
回し手形は上の図のように、A社がB社に支払った手形を、C社に裏書して支払う形で利用します。
回し手形は融資とは違い、審査や複雑な手続きなしで簡単に資金繰りに役立てることができる手段ですが、不渡りになった時のリスクが高い手段だと言えます。
そこでこの記事では、回し手形のメリット・デメリットを含め、回し手形について以下のことをお伝えするのでお役立てください。
この記事を読めば回し手形について詳しく知ることができるとともに、他の資金調達方法についても理解することができます。ぜひ最後まで読み進めてくださいね。
ファクタリングについては6.売掛金を活用した資金調達方法〜ファクタリング〜で詳しく解説しています。
目次
1.回し手形とは
回し手形とは、手元にある手形を支払いに活用するために裏書し、譲渡された手形のことです。
上の図のように、②で受け取った手形を裏書し、④の支払いに当てる、というような使い方をするのが回し手形です。
「商品代を回し手形で支払う」「買掛金を回し手形で支払う」のように活用します。
具体的な例をあげてみましょう。
【回し手形の具体例】
1.5月1日にA社から「額面200万円、支払いサイト60日」の約束手形を受け取った。
2.5月20日にB社への支払い300万円が必要となった。そこで、A社から受け取った約束手形を裏書して回し手形として200万円と現金100万円で計300万円支払った。
3.7月1日、回し手形を受け取ったB社は、手形を現金化した。
本来期日にならないと現金化できない手形ですが、上記のように回し手形を活用すれば、現金のような使い方ができます。
【用語解説】
◎手形とは・・・手形とは、額面上の金額を一定の期日までに支払うと約束した証書のこと。 原則、記載された支払期日にならないと現金化できない。
◎支払いサイトとは・・・手形が発行された日から支払期日までの期間のこと。 一般的に30日~120日のものが多い。
2.回し手形の利用方法
回し手形はどのように利用するのでしょうか。
ここでは個人事業主が利用する機会が多い約束手形を回し手形として利用する方法をお伝えします。
約束手形を回し手形として利用する方法はとても簡単で、次の通りです。
それぞれみていきましょう。
2-1.支払い先の了承を得る
回し手形で支払う場合は、事前にその旨を支払い先に伝え、回し手形で支払っても大丈夫か了承を取る必要があります。
了承を取る際の方法に特に決まりはありませんが、口頭より文章に残しておいた方がより良いと言えます。
その際、「手形の振出人」「支払期日」についても合わせて伝えましょう。
取引先が回し手形で支払うことを了承してくれたら、回し手形での支払いが可能になります。
【用語解説】
◎手形の振出人とは・・・手形を発行する人。
2-2.裏書する
約束手形の裏面には、裏書用の記入欄があります。
そこに必要事項を記載しましょう。
記載する内容は以下の通りです。
- 譲渡年月日
- 裏書人の名称と押印(自分の会社名、手形表面の〇〇殿と同じ名称)
- 手形を譲渡する相手方の名称
以上のことを記載すれば、裏書は完了です。
2-3.手形を譲渡する
裏書した手形を取引先に渡せば、譲渡の完了です。
回し手形を受け取った取引先は、支払期日に手形を現金化することになりますが、期日を待たずさらに他の第三者に手形を譲渡することもできます。
3.回し手形のメリット
回し手形にはどんなメリットがあるのでしょうか。
メリットは以下の通りです。
詳しくお伝えします。
3-1.手数料なしで早急に現金化が図れる
回し手形のメリットは、実質的に手数料なしで早急に現金化が図れる点です。
回し手形を利用しても、融資などのように利息や手数料はかかりません。
手形の額面をそのまま資金として支払いに充てることができます。
また、回し手形を使用するにあたって特別な手続きや書類の提出はなく、手元にある手形の裏面に必要事項を記載して印鑑を押すだけで支払いに利用可能です。
手数料や余計な手間なく早急に現金がを図れるのが、回し手形の最大で唯一のメリットと言えます。
4.回し手形のデメリット
回し手形のデメリットはどんなものがあるのでしょうか。
回し手形のデメリットは以下の通りです。
それぞれお伝えします。
4-1.手形が不渡りになった場合は支払い責任が発生する可能性がある
手形が不渡りになり、回し手形を譲渡した相手が現金を受け取れなかった場合、手形の額面分の支払いを求められる可能性があります。
そのため回し手形で支払う場合の取引は、手形の支払期日に手形が現金化されるまでは、本当の意味で取引が完了したとは言えません。
具体的な例をあげてみましょう。
【回し手形が不渡りになった場合の例】
A社から約束手形を受け取ったB社。
B社はC社の売掛金の支払いにA社から受け取った約束手形を回し手形として充てた。
しかしA社が倒産し、手形を現金化できなくなってしまった。このような場合、C社はB社に対して支払いを求めることができます。
上の例のように、C社がB社に支払いを求めることができる権利を「償還請求権」といい、回し手形が不渡りになると、手形の発行元に変わって支払いをしないといけない可能性があります。
4-2.一部を譲渡することはできない
回し手形は、手形に記載する額面全額を譲渡するもので、その一部を譲渡することはできません。
例えば、200万円の手形を回し手形として利用したいとします。
この手形を仮に100万円の支払いに利用する場合でも、100万円だけ譲渡することはできず、200万円全てを譲渡しなければいけません。
このことから、額面が大きい手形ほど使い勝手が悪いと言えます。
一部譲渡ができない点は、使い勝手の面で回し手形の大きなデメリットです。
4-3.利用する前に相手の了承が必要
回し手形を利用する場合、回し手形で支払うことに問題がないか取引先に了承を取る必要があります。
了承を取る必要があるということは、了承してもらえない場合もある、ということです。
例えば、振出人の信用がなかったり、支払期限が相手にとって都合が悪い場合は、了承してもらえないことも十分に考えられます。
そうすると、回し手形で支払うことができず、資金を調達しなければなりません。
手続きなく簡単に利用できる回し手形ですが、相手の了承が得られない場合には使えないというのはデメリットと言えます。
4-4.資金繰りが危ないと思われる可能性がある
回し手形を利用すると、「現金がないのかな?」「資金繰りに困っているのかな?」と疑念を持たれる可能性があります。
このような疑念を抱かれるのは、個人事業主にとってはマイナスです。
今後の取引に影響が出る可能性もあります。
回し手形を利用するということは、少なからず信用に関するリスクがあることを念頭に置いて利用しましょう。
5.回し手形以外で手形を活用した資金調達方法〜手形割引〜
回し手形以外で手形を活用した資金調達方法として、「手形割引」というものがあります。
【手形割引とは】
銀行や手形割引業者などに手形を買い取ってもらい現金化すること。
手形に記載された支払い期日までの利子に相当する金額を差し引かれた金額を受け取ることができます。
つまり受け取れる金額は、必ず手形の額面以下となります。
手形割引は、一般的に資金繰りのために利用します。
具体的には手形の支払期日までに資金が不足する、また不足しそうな場合です。
5-1.回し手形と手形割引の違い
回し手形と手形割引は、同じ手形を利用した資金調達方法ですが、内容は全く異なるものです。
以下のように比較してみました。
回し手形 | 手形割引 | |
---|---|---|
取引相手 | 仕入れ先など | 銀行・手形割引業者など |
現金化 | なし | 可能 |
手数料など | 原則なし | あり |
リスク | 不渡りの際に支払い責任がある | 受け取れる金額は額面以下 不渡りの際に支払い責任がある |
そもそも回し手形は現金化せずにそのまま手形を譲渡するのに対し、手形割引は手形を買い取ってもらって現金化するものです。
買掛金や仕入れの支払いに資金が必要な場合は回し手形として活用する方が向いています。事業の運転資金など、現金が必要な場合は手形割引が向いているでしょう。
5-2.手形割引のメリット
手形割引にはどんなメリットがあるのでしょうか。メリットは以下の通りです。
メリット | 内容 |
---|---|
手形の期日を待たず現金調達できる | 支払期日前に現金を受け取ることができます |
融資と比べて手数料が安い | 一般的に銀行だと5%以下 |
審査に通りやすい | 手形の振出人は大企業が多いため |
以上のメリットから、手形割引を利用すれば、低い手数料で素早く資金調達ができると言えます。
5-3.手形割引のデメリット
手形割引のデメリットはどんなものがあるのでしょうか。
デメリットは以下の通りです。
デメリット | 内容 |
---|---|
不渡りになると買い戻さなければならない | 買い取ってもらった手形が不渡りになった場合、買い戻しの義務が発生する。 その場合、現金で買い戻さなければならないので、資金繰りが厳しくなる可能性がある。 |
手数料がかかる | 手数料を引いた金額の現金を受け取れる。 手形の額面満額は受け取れない。 |
手形割引の最大のデメリットは、不渡りになった際にあります。
手形が不渡りになった場合は買い取らなければなりません。
さらに手形が買い戻しになると、手形割引時に引かれた手数料は戻ってこない上に、追加で不渡り返却手数料(税込1,100円程度)が必要になります。
手形の支払期日が到来するまでは、買い戻しのリスクがあるということを念頭に置いておきましょう。
6.売掛金を活用した資金調達方法〜ファクタリング〜
手形、融資以外の資金調達方法で、売掛金を活用した資金調達方法として「ファクタリング」というものがあります。
【ファクタリングとは】
ファクタリングとは、企業、個人事業主が保有している売掛金をファクタリング会社へ売却することで、売掛金を早期資金化する金融サービスのこと
ファクタリングは、売掛金を買い取ってもらい資金化するサービスで、近年利用する企業が増えています。
手形や融資とは異なるファクタリングについては「ファクタリングサービスとは何か?」の記事をご覧ください。
6-1.ファクタリングの仕組み
ファクタリングには保険のような意味合いの「保証型ファクタリング」と、資金調達を目的とした「買取型ファクタリング」があります。
さらに「買取型ファクタリング」は、「2者間ファクタリング」と「3者間ファクタリング」がありますが、ここでは「2者間ファクタリング」の仕組みをお伝えします。
2者間ファクタリングでは、売掛先の承諾を得る必要はありません。
そのため売掛先に資金繰りについて疑念を抱かれる心配がありません。
手数料は一般的に8%〜18%と設定されています。
売掛先から入金があったら、ファクタリング会社に送金して取引完了です。
2者間ファクタリングの特徴やメリットデメリットについてさらに詳しく知りたい人は「2者間ファクタリングとは?メリット・デメリットとやり方・注意点を解説」の記事を参考にしてください。
6-2.ファクタリングのメリット
ファクタリングにはどんなメリットがあるのでしょうか。
メリットは以下の通りです。
それぞれについてお伝えします。
6-2-1.最短即日資金調達が可能
ファクタリングは、最短即日、遅くとも3日程度で資金調達が可能です。
融資のような厳しい審査はなく、必要書類も少ないため、スピーディーに対応できます。
6-2-2.売掛先の承諾なしで資金調達が可能
2者間ファクタリングなら、売掛先への通知や承諾が必要ありません。
そのため、売掛先に知られることなく売掛金を資金化できます。
6-2-3.売掛先が倒産しても支払い義務は発生しない
ファクタリングは、売掛先が万が一倒産しても支払い義務は発生しません。
売掛先の倒産リスク等はファクタリング会社が負うのが一般的です。
なぜかというと、ファクタリングを契約すると、売掛金はファクタリング会社に売却されるからです。
そのため、万が一売掛先が倒産し、売掛金が回収できなかった場合であっても、ファクタリング会社に支払いをしなくてよいということになります。
(ただし、契約によっては例外もあります。念の為、契約時には買い戻し義務や償還請求権について確認しましょう。)
6-3.ファクタリングのデメリット
ファクタリングにはどんなデメリットがあるのでしょうか。
デメリットは以下の通りです。
それぞれについてお伝えします。
6-3-1.手数料が発生する
ファクタリングを利用すると、手数料がかかります。
そのため受け取れる金額は、売掛金から手数料を差し引いた金額ということになります。
ファクタリングの手数料の相場は以下の通りです。
•2者間ファクタリングの手数料相場:おおよそ8%~18%前後
•3者間ファクタリングの手数料相場:おおよそ2%~9%前後
手数料は会社によって違います。
契約前にしっかり確認しましょう。
6-3-2.3者間ファクタリングは売掛先の承諾が必要
3者間ファクタリングは売掛先も契約に関わるため、売掛先の承諾が必要になります。
つまり、売掛先にファクタリングを利用することを知られることになります。
売掛先にファクタリングを利用することを知られたくない場合は、手数料が高くなりますが、2者間ファクタリングを利用するのがおすすめです。
3者間ファクタリングの特徴やメリットデメリットについてさらに詳しく知りたい人は「3者間ファクタリングとは?メリット・デメリットやおすすめの相談先、利用手順を解説」の記事も参考にしてみてください。
6-4.回し手形とファクタリングの比較
ファクタリングと回し手形の違いはなんでしょうか。
以下のようにまとめました。
回し手形 | ファクタリング | |
---|---|---|
何を活用するか | 手形 | 売掛金 |
取引相手 | 仕入れ先など | ファクタリング会社 |
現金化 | なし | 可能 |
手数料など | 原則なし | あり |
手形振出人/売掛先の倒産時リスク | 不渡りの際に支払い責任がある | 支払いの義務なし |
回し手形とファクタリングはそもそも内容が全く異なるものですが、比較すると一番大きな違いは、手形振出人/売掛先が倒産した場合のリスクです。
回し手形は、手形が不渡りになった場合、支払いの責任が生じますが、ファクタリングは売掛先が倒産しても支払う義務がありません。
リスクをしっかり念頭においた上で、目的にあった資金調達をしましょう。
7.まとめ
この記事では、「回し手形」について詳しくお伝えするとともに、同じ手形を活用した資金調達方法として「割引手形」についてもお伝えしました。
また、手形、融資以外の資金調達方法として、「ファクタリング」についてもお伝えしました。
最後に、回し手形のメリット・デメリットについておさらいしておきましょう。
回し手形のメリットは以下の通りです。
また、回し手形のデメリットは以下の通りでした。
この記事を読んで、あなたが自社にあった資金調達方法を選択することができ、資金繰りがうまくいくことを願っています。
筑波大学大学院修士課程修了後、上場企業に勤務。不動産ファンドの運用・法務を担当した後、中小企業の事業再生や資金繰り支援を経験。その後弊社代表から直々の誘いを受け、株式会社ビートレーディングに入社。現在はマーケティング・法務・審査など会社の業務に幅広く携わる。
<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者