ファクタリング契約をする際、債権譲渡の対抗要件を備える手続きをすることがあります。
しかし、「対抗要件」とは何なのか、具体的にどのような手続きが必要なのかなど、わからないことが多いという人もいるでしょう。
本記事では、ファクタリングにおける対抗要件とは何なのか、対抗要件が重要な理由や手続きの方法などを解説します。
ファクタリング契約の流れを把握した上で、自社にとって最適なファクタリング会社を選ぶために役立ててください。
ファクタリングの仕組みや意味について詳しくは「ファクタリングとは?仕組みや種類・意味・注意点を簡単に解説!」の記事をご覧ください。
目次
1.そもそも「対抗要件」とは何か
「対抗要件」とは、当事者間で成立した権利関係を第三者に対して主張するために必要な要件のことです。
対抗要件を備えることによって権利を主張できるようになるため、トラブルが起こった際に法的根拠とすることができます。
対抗要件は権利の種類によって、必要な要件が異なります。
例えば、不動産売買においては原則として登記が対抗要件となるでしょう。
不動産登記を行うことによって、不動産の所有者が自分であることを第三者に対して主張できるという仕組みです。
その他にも、自動車なら登録、株式なら株式名簿への記載などが挙げられます。
また、債権の場合には債務者に対しては債務者への通知や債務者からの承諾、第三者に対しては債権譲渡登記などが必要とされています。
2.ファクタリング契約において対抗要件が重要な理由
ファクタリングは債権譲渡契約を結ぶため、債権を譲渡し債権者が誰なのか証明するために対抗要件を備えることが重要だといわれており、そのための手続きを行うことがあります。
ここでは、対抗要件が重要とされる理由を詳しく解説します。
ファクタリングへの理解を深めるために役立ててください。
2-1.売掛金の債権者が変わるため
ファクタリングは売掛金(売掛債権)をファクタリング会社へ譲渡して、資金調達する方法です。
そのためファクタリングを利用することにより、債権者がファクタリングの利用者(利用会社)からファクタリング会社に移ることになります。
ファクタリング契約によって、利用者(利用会社)とファクタリング会社の債権譲渡契約が成立しますが、この契約は当事者間のものです。
当事者間で債権譲渡契約が成立したとしても、第三者や売掛先には対抗できません。
第三者や売掛先に対抗するためには、対抗要件を備える手続きが必要になります。
2-2.売掛金の二重譲渡を防止するため
売掛金の二重譲渡とは、同一の売掛金を複数の人に対して譲渡する行為です。
ファクタリングにおいては、同じ売掛金を複数のファクタリング会社に譲渡することを指します。
二重譲渡が行われると、売掛先に対する請求権が重複します。
1つの債権に対して、債権者が複数存在することになるため、売掛金を受け取る権利を誰が持っているのかがわかりにくくなり、売掛金が回収できなくなってしまうおそれがあります。
この場合、他の譲受人である第三者や売掛先に対する対抗要件を備えていれば、債権者としての権利を主張できます。
そのため、仮に二重譲渡が行われていたとしても債権者としての立場を主張でき、売掛金を回収できる可能性が高いでしょう。
ファクタリングの二重譲渡について詳しくは「ファクタリングで二重譲渡をしたら犯罪!?発覚したときの最悪のケースは?」の記事をご覧ください。
2-3.売掛金を確実に回収するため
ファクタリング利用者(利用会社)とファクタリング会社の2者間で契約する2者間ファクタリングにおいては、もとの債権者である利用者(利用会社)が売掛金を回収します。
回収した売掛金をファクタリング会社へ送金することで、契約が完遂されるという仕組みです。
しかし、利用者(利用会社)が回収した売掛金を送金せずに使い込んでしまった場合には、ファクタリング会社は法的手段によって債権回収を行わなければいけません。
売掛金回収のために訴訟に発展するケースもあるでしょう。
このような場合、対抗要件を備えておくことで債権者としての権利を主張できます。
対抗要件は法的根拠となるため、売掛金が回収できる可能性が高くなります。
3.債権譲渡をする際に対抗要件を備える方法
債権譲渡をする際には対抗要件を備えることが重要であることは理解できたものの、実際にどのように対抗要件を備えるのでしょうか。
ここでは、債権譲渡をする際の対抗要件は何なのか、対抗要件を備える方法などについて解説します。
3-1.債権譲渡の対抗要件
債権譲渡の対抗要件は、民法第467条によって定められています。
具体的な対抗要件は以下のとおりです。
・債権の譲受人が債務者に対して自分が債権者であると主張するには、譲渡人が債権者に通知をする、または債務者が承諾しなければいけない
・債務者以外の第三者(債権の二重譲受人や差押債権者、破産管財人など)に対して債権者であると主張するには、債務者への通知もしくは承諾の手続きを確定日付のある証書によって行う必要がある
基本的には、譲渡人(利用者)から債務者(売掛先)へ通知する、もしくは債務者の承諾のどちらかを満たさなければいけません。
ただし、特例として債権譲渡登記制度を利用する方法もあります。
債務者への通知や債務者の承諾がなかったとしても債権譲渡登記をすることで、債務者以外の第三者に対する対抗要件が得られるとされています。
さらに、登記したことについて登記事項証明書を交付し債務者へ通知をすれば、債務者対抗要件を備えることが可能です。
3-2.対抗要件を備える方法
対抗要件を備えるにはどうすればよいのでしょうか。
ここでは、対抗要件を備える方法を具体的に解説していくので、参考にしてください。
3-2-1. 譲渡人から債務者に通知をする
まずは、譲渡人(利用者)から債務者(売掛先)に対して通知をする方法です。
譲渡人が債務者に対して、債権を譲渡した旨を伝えることによって譲受人は債務者に対する対抗要件を備えられます。
この場合、通知をするのは原則として譲渡人でなければいけません。
債権を譲渡された側が通知をしても対抗要件は備えられないため注意しましょう。
ただし、通知する権利を譲受人に委任して譲受人が通知をすることも可能です。
また、第三者に対抗するためには確定日付のある証書によって通知をしなければいけません。
確定日付のある証書としては、内容証明郵便や公証人が日付印を押捺した文書などが挙げられます。
万一、二重譲渡が行われていた場合には、日付が早いほうが優先されることになります。
債権譲渡通知について詳しくは「ファクタリングにおける債権譲渡登記や債権譲渡通知の目的・必要性とは?」の記事をご覧ください。
3-2-2. 債務者の承諾を得る
債権が譲渡されたことについて債務者が承諾をすれば対抗要件を備えられます。
承諾は、譲渡人もしくは譲受人どちらに対する承諾でも構いません。
ただし、承諾を行う場合には譲渡人からの通知と同様に、確定日付のある証書を用意することが重要です。
確定日付のある証書によって承諾を得ることで、第三者に対する対抗要件を備えられます。
また、仮に複数の相手に対し承諾した場合には、確定日付が早いほうが優先されます。
確定日付のある証書がない場合には、二重譲渡などが行われてしまった場合に優先順位を判断できなくなるため、対抗要件としての効力が弱くなってしまいます。
3-2-3. 債権譲渡登記をする
債権の譲渡人が債権譲渡登記を行うことにより、譲受人は第三者に対して対抗要件を備えられます。
債権譲渡登記は、債権が譲渡されたことを東京法務局で登記する手続きです。
ただし、債権譲渡登記は法人しか行えません。
譲渡人が個人の場合には、債権譲渡登記制度が利用できない点に注意が必要です。
そのため、個人事業主がファクタリングを利用する際には、債権譲渡登記が不要なファクタリング会社を選ぶ必要があります。
債権譲渡登記は債務者が関わることなく第三者対抗要件を備えられる方法です。
また、登記事項証明書を交付して債務者へ通知することで債務者対抗要件を備えることができます。
ただし、登記によって債権の存在や譲渡の有効性を証明するものではありません。
債権譲渡登記や登記が不要になるケースについて詳しくは、「ファクタリングにおける債権譲渡登記は必須?登記不要なケースを解説」の記事をご覧ください。
4. ファクタリングではどのように対抗要件を備える?
ファクタリングを利用する際には、実際にどのように対抗要件を備えればよいのでしょうか。
ここでは、2者間ファクタリングと3者間ファクタリングに分けて、対抗要件の備え方を解説します。
4-1. 2者間ファクタリングの場合
2者間ファクタリングでは、利用者(利用会社)とファクタリング会社の2者間で契約するため、売掛先が関与しない契約です。
そのため、第三者への対抗要件として債権譲渡登記をするケースが多いです。
債権譲渡登記を行うことによって、万一、二重譲渡があった場合でも、ファクタリング会社は第三者に対抗できるようになります。
ただし、債権譲渡登記には費用がかかる点に注意が必要です。
また、登記情報は誰でも閲覧できるため、ファクタリングを利用した事実を売掛先が知る可能性もゼロではありません。
債権譲渡登記は必須ではなく、登記を留保できるファクタリング会社も存在します。
そのため、債権譲渡登記を避けたい場合は、登記が不要なファクタリング会社を選ぶのも一つの方法です。
ただし、対抗要件を備えることにより、ファクタリング会社のリスクを軽減できるため、2者間ファクタリングであっても手数料を抑えられる可能性もあります。
登記の有無についてはファクタリング会社へ相談して、自社に合う方を選びましょう。
2者間ファクタリングの仕組みやメリットについては「2者間ファクタリングとは?メリット・デメリットとやり方・注意点を解説」の記事をご覧ください。
4-2. 3者間ファクタリングの場合
3者間ファクタリングでは、利用者(利用会社)と売掛先、ファクタリング会社の3者間で契約を交わします。
この際、利用者(利用会社)から債権譲渡通知を行って承諾を得ることによって、債務者(売掛先)に対する対抗要件を得ることができます。
前述したように、利用者(利用会社)が確定日付のある証書によって通知をする、もしくは売掛先から確定日付のある証書によって承諾を得られれば第三者対抗要件も備えることが可能です。
承諾を得られれば対抗要件を備えられるため、3者間ファクタリングの場合、基本的には債権譲渡登記を行う必要はないでしょう。
しかし、3者間ファクタリングでは債権譲渡通知をして承諾を得なければ利用できません。
利用者の意思のみでは利用できず、通知・承諾を得るまでに時間もかかるため、注意が必要です。
3者間ファクタリングについて詳しくは「3者間ファクタリングとは?メリット・デメリットやおすすめの相談先、利用手順を解説」の記事をご覧ください。
5. 対抗要件を備える場合の注意点
対抗要件を備えることでファクタリング会社のリスクが軽減され、良い条件でファクタリングが利用できる可能性がある一方、利用者が注意したいポイントがいくつかあります。
ここでは対抗要件を備える際の注意点について解説します。
5-1.債権譲渡登記をする場合
債権譲渡登記をする場合には、以下の2点に注意しましょう。
・手続きに費用がかかる
・登記情報が記録される
それぞれの注意点について詳しく見ていきましょう。
5-1-1. 手続きに費用がかかる
債権譲渡登記には費用がかかります。
債権譲渡登記自体は、専門家に依頼せずに行うこともできますが、手続きが煩雑です。
法的要件を満たす必要があるため、一般的には司法書士などの専門家に依頼することになるでしょう。
そのため、司法書士への報酬や登録免許税などの費用が必要です。
司法書士に手続きを依頼する場合には、数万円~10万円程度の報酬が発生します。
報酬については司法書士によって異なるため、依頼前に確認しましょう。
登録免許税は債権5,000個以下の場合には1件につき7,500円です。
債権譲渡登記にかかる費用は、ファクタリングを利用する売掛金の金額に関係なく、ほぼ一定です。
そのため、売掛金の金額が小さいほどコストが多くなる点に注意する必要があります。
5-1-2. 債権譲渡が登記情報として記録される
2者間ファクタリングでは、売掛先への通知や売掛先からの承諾が不要です。
そのため、売掛先に通知をしなくてもファクタリングを利用できることがメリットです。
売掛先が契約に関与しないため、「経営状況が良くないのではないか」などと疑念を持たれることなく資金調達できます。
ただし、債権譲渡登録をした場合には、登記簿に記録されることになるため注意しましょう。
登記簿に記録されることで、売掛先が債権譲渡の事実を知ることもあるかもしれません。
売掛先が積極的に登記情報を確認しない限り、ファクタリングの利用を知る可能性は高くありませんが、売掛先が知る可能性はゼロではないことを理解しておく必要があります。
気になる場合は、債権譲渡登記を必要としないファクタリング会社を選ぶこともポイントです。
中には債権譲渡登記をしなくても利用できる会社もあるため、あらかじめ確認しておきましょう。
5-2.売掛先に承諾を得る場合
3者間ファクタリングを利用する際には、売掛先に通知をして承諾を得ることになります。
売掛先から承諾を得る場合には、以下の点に注意しましょう。
・今後の取引に影響する可能性もある
・手続きに時間がかかる
ここでは、各注意点について詳しく見ていきましょう。
5-2-1.今後の取引に影響する可能性がある
売掛先に通知をして承諾を得る場合、売掛先は利用者(利用会社)がファクタリングを利用することを知ることになります。
ファクタリングは利用が拡大している資金調達方法ではありますが、ファクタリングについて売掛先があまり理解していないケースもあるでしょう。
ファクタリングの利用について理解がない場合、取引先である利用者(利用会社)の経営状態が悪化しているのではないか、資金繰りが上手くいっていないのではないかなどと懸念を持たれる可能性もあります。
結果として、取引停止になる恐れもあるため注意しましょう。
特に、取引が始まったばかりという場合には信頼関係が築けていないことも多いです。
信頼関係がない状態でファクタリングの利用を知られると、今後の取引に影響する可能性も高くなります。
5-2-2.手続きに時間がかかるため入金スピードが遅い
売掛先に対して通知をして承諾を得る場合には、まずファクタリングの利用について売掛先に説明するところから始めなければいけません。
売掛先に説明をして承諾をもらって契約をするというように、2者間ファクタリングよりも利用までのプロセスが多くなります。
売掛先が関与することで、契約手続きに時間がかかってしまうため、スピーディーな利用は難しいといえるでしょう。
資金調達までに1週間程度かかる可能性があります。
そのため、すぐに資金が必要、できるだけ早く売掛金を資金化(現金化)したいという場合には向いていないでしょう。
6.まとめ
ファクタリングを利用する際には、対抗要件を備えるために売掛先への通知や売掛先からの承諾、債権譲渡登記などの手続きが必要になるケースがあります。
対抗要件を備えることで債務者や第三者に対して権利を主張できるようになるため、ファクタリング会社にとっては重要です。
また対抗要件に備えることで、ファクタリングの条件が緩和され、利用者にとってもメリットがあります。
2者間ファクタリングで対抗要件を備える場合には債権譲渡登記を行いますが、登記手続きには費用がかかるため注意しましょう。
また、ファクタリングの利用を売掛先が知るリスクはゼロではないことも理解しておくことが大切です。
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筑波大学大学院修士課程修了後、上場企業に勤務。不動産ファンドの運用・法務を担当した後、中小企業の事業再生や資金繰り支援を経験。その後弊社代表から直々の誘いを受け、株式会社ビートレーディングに入社。現在はマーケティング・法務・審査など会社の業務に幅広く携わる。
<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者