ファクタリングで取り扱われる債権とはどのようなものなのか、よく知らないという方も多いのではないでしょうか。
債権とは、特定の人に対して債務の履行を要求できる権利を指します。
債務とは、他者に対して法的に履行しなければいけない行動のことで、金銭の支払いや物品の引き渡し、労務提供などが挙げられます。
本記事では、ファクタリングにおける債権とは何かやファクタリングと債権を取り扱う他のサービスとの違い、ファクタリングを利用する際に債権譲渡登記が必要かどうかなども解説するので参考にしてください。
ファクタリングの基礎知識を解説した「ファクタリングとは?」の記事も合わせてご覧ください。
目次
1.ファクタリングで譲渡の対象となる売掛債権とは
ファクタリングでは、売掛債権(売掛金)をファクタリング会社へ譲渡して売却代金を得ることで資金調達を行います。
ここではファクタリングにおける債権について、その性質や内容を解説します。
1-1.売掛金を請求する権利のこと
ファクタリングで譲渡の対象となる債権は、売掛債権(売掛金)です。
売掛債権とは、売掛金を請求する権利のことをいいます。
商品やサービスを顧客に提供した企業は、代金を請求する権利を得ます。
売掛金は将来受け取ることができるお金であるため、売掛債権は企業の資産とみなされるのです。
なお、未収金との違いは本業の事業活動で生じたものか否かという点にあります。
売掛金は本業から生じたものが対象ですが、未収金は本業以外で生じた収入のうち、まだ支払われていない代金のことです。
1-2.主に確定債権が対象となる
ファクタリングで譲渡の対象となる債権は、主に入金日や入金額が確定している売掛債権(売掛金)です。これを確定債権と呼びます。
商品の納品や検品、あるいはサービスの提供が完了すると、売掛金の金額や支払期日を確定させることができます。
確定債権はこのように、金額、期日などの請求内容について売掛先から同意が得られている状態の債権です。
一方、納品が完了しても検品が未完了の場合や、提供するべきサービスが残っている場合は、商品の返品、サービス内容の変更がないとは限らないため、確定債権には該当しません。
2.ファクタリングにおける債権の取り扱い
ファクタリングにおいては確定債権以外の債権を取り扱うこともあります。ここでは、ファクタリングにおける債権の取り扱いについて解説します。
2-1.将来債権の譲渡
将来債権とは、まだ商品の納品やサービスの提供は済んでいないものの、将来的に発生する債権のことです。
従来ファクタリングでは、確定債権が譲渡の対象と定められていました。
しかし2020年4月1日施行の改正民法により、新たに将来債権の譲渡が可能になっています。
そのため、注文書や発注書をもとに将来発生する売掛金を買い取る「注文書ファクタリング」を扱うファクタリング会社も出てきました。
注文書、発注書の存在は、将来的に納品やサービス提供が完了した後、発注者に対する債権が発生することを示唆するものです。
結果としてこうした将来債権を扱うファクタリング会社が増加し、ファクタリングによって将来債権が譲渡される件数も増えつつあります。
注文書ファクタリングについて詳しくは、「注文書ファクタリング(注文書買取)とは?仕組みやメリット、利用事例をご紹介」の記事をご覧ください。
2-2.譲渡禁止特約付き債権の譲渡
2020年4月1日施行の改正民法により、譲渡禁止特約が付いた売掛債権(売掛金)の譲渡が有効とされました。そのため、法律上は債権譲渡禁止特約が付けられた売掛債権でも、ファクタリングで現金化(資金化)できます。
譲渡禁止特約付き債権とは、債務者の同意なしに債権を譲渡できないという特約です。
改正民法によって、譲渡禁止特約があっても債権が譲渡できるようになった一方で、債務者は弁済の相手方を固定できる利益を有しています。
つまり新たな債権者へ弁済することで債務者に不利益が生じるような場合は、元の債権者に対する弁済が認められているのです。
債務者が元の債権者(債権の譲渡人)に対して弁済を行った場合は、新たな債権者(債権の譲受人)は元の債権者(債権の譲渡人)に対して、弁済金を支払うよう請求できます。
3.ファクタリングと債権を扱う他サービスとの違い
債権を扱うサービスはファクタリングだけではありません。債権を扱う主なサービスとしては、債権回収サービスや売掛債権担保融資、債権保証サービスなどが挙げられます。
ここでは、ファクタリングと他サービスとの違いを詳しく解説します。
3-1.債権回収サービス
債権回収サービスとは、期日までに支払いがなかった債権を債権者に代わり、債権回収会社(サービサー)が回収するサービスです。
債権回収会社が対象とする債権は、特定金銭債権の中でも回収が難しいとされている不良債権です。
不良債権とは、債権のうち通常の回収期間に支払いが行われず、回収が困難な状態にあるもしくは困難になる可能性が高いものを指します。
債権回収は手間や時間がかかる作業となるため、債権を多く抱えるクレジット会社や金融機関などが債権回収会社に依頼するケースも珍しくありません。
債権回収サービスでは期限までに支払われなかった不良債権を対象としていますが、ファクタリングでは支払期日前の確定債権・将来債権を買い取るため、対象の債権に大きな違いがあります。
ファクタリングと債権回収サービスの違いについて詳しくは、「ファクタリングと債権回収会社(サービサー)との違いとは?注意点を解説」の記事をご覧ください。
3-2.売掛債権担保融資
売掛債権担保融資(ABL)とは、売掛債権(売掛金)を担保として融資が受けられる制度です。
売掛債権担保融資とファクタリングは、どちらも企業が保有する売掛債権を基にして資金を調達する方法として利用されていますが、審査対象に大きな違いがあります。
売掛債権担保融資は融資の一種で、金融機関などから融資を受ける際と同様に、利用者(利用会社)に信用力がなければ利用できません。
そのため、自社の財政状況が悪化して赤字になっている、税金を滞納している場合には利用できない可能性があります。
一方、ファクタリングは売掛債権を譲渡して資金を得る方法のため融資とは異なります。
審査においては売掛先の信用力が重視される傾向にあるため、利用者(利用会社)の信用力が低くても利用できる可能性があります。
このように、売掛債権担保融資は貸金に該当しますが、ファクタリングは貸金ではないという点が異なります。
ABLとファクタリングの違いについて詳しくは、「ABLとファクタリングの違いとは?メリット・デメリットや選び方を紹介」の記事をご覧ください。
3-3.債権保証サービス
債権保証サービスとは、売掛先の倒産などによって回収できなくなった場合に債権を保証してくれるサービスです。
債権保証サービスの一つに債権保証を目的とした保証ファクタリングがあります。
保証ファクタリングとは通常のファクタリング(買取ファクタリング)とは異なり、売掛債権が未回収になるリスクに備えるためのファクタリングで、売掛債権を回収できなくなったときに補償金が支払われるという仕組みです。
また、債権保証サービスにはこの他にも、取引信用保険や個別債権保証などがあります。
債権保証について詳しくは、「債権保証とは?意味やメリット・デメリットを初心者にわかりやすく解説」の記事をご覧ください。
4. ファクタリングにおける債権譲渡の仕組み・流れ
ファクタリングでは、具体的にどのような形で債権譲渡が行われるのでしょうか。
ファクタリングにおける債権譲渡の仕組みと流れを解説します。
4-1.2者間ファクタリング
2者間ファクタリングは、利用者(利用会社)とファクタリング会社の2者でファクタリング契約をする方法です。
売掛先の承諾を得ずに債権譲渡するため、利用者(利用会社)が売掛債権(売掛金)を回収します。
その後、売掛先から利用者(利用会社)へ支払いがあったときに、利用者(利用会社)がファクタリング会社へ回収金を支払うことで、取引が完了します。
2者間ファクタリングの一般的な流れは、次のとおりです。
1.売掛債権の発生
2.利用者(利用会社)がファクタリング会社へ売掛債権を譲渡
3.ファクタリング会社から利用者(利用会社)へ買取代金の支払い
4.利用者(利用会社)が売掛債権を回収し、ファクタリング会社へ送金
2者間ファクタリングのメリットは、最短即日で資金調達ができる点です。
また売掛先の承諾を得るプロセスがないため、現金化(資金化)まで利用者とファクタリング会社のやり取りのみで完了し、スピーディーに資金調達することができます。
一方で、売掛先が契約に関与しないためファクタリング会社にとってはリスクが高い方法であるともいえます。
したがって2者間ファクタリングは利用にあたって3者間ファクタリングに比べ手数料が高く審査も厳しくなりがちです。
2者間ファクタリングの仕組みや特徴について詳しくは「2者間ファクタリングとは?メリット・デメリットとやり方・注意点を解説」の記事をご覧ください。
4-2.3者間ファクタリング
3者間ファクタリングは、利用者(利用会社)、売掛先、ファクタリング会社の3者でファクタリング契約をする方法です。
まず利用者(利用会社)は、売掛先の承諾を得て売掛債権(売掛金)をファクタリング会社へ譲渡します。
3者間ファクタリングでは、売掛金の支払期日にファクタリング会社が売掛先から直接資金を回収できるのが特徴です。
3者間ファクタリングの一般的な流れは次のとおりです。
1.売掛債権の発生
2.利用者(利用会社)は売掛先から債権譲渡の承諾を得る
3.利用者(利用会社)がファクタリング会社へ売掛債権を譲渡
4.ファクタリング会社から利用者(利用会社)へ買取代金の支払い
5.売掛先からファクタリング会社へ売掛金の支払い
3者間ファクタリングは売掛先から承諾を得る手間がありますが、ファクタリング会社が売掛先と直接やり取りができるため、2者間ファクタリングに比べてリスクが少なめです。
そのため手数料が比較的安価に設定されており、利用者(利用会社)にとってはファクタリング会社へ送金する手間が省けるというメリットもあります。
3者間ファクタリングの仕組みや特徴について詳しくは「3者間ファクタリングとは?メリット・デメリットやおすすめの相談先、利用手順を解説」の記事をご覧ください。
5. ファクタリングを利用する際には債権譲渡登記が必要?
ファクタリングを利用する際には、債権譲渡登記が必要になるケースもあります。
債権譲渡登記とは、債権を譲渡する際に当事者以外の第三者に対して対抗要件を備えるための手続きです。
簡単にいうと、債権譲渡登記を行うことで第三者に対して債権譲渡がなされている事実を証明することができます。
2者間ファクタリングでは売掛先への通知や承諾が不要なため、二重譲渡が行われても第三者に対抗できません。
そのため、2者間ファクタリングの場合には債権譲渡登記を求められる場合もあるでしょう。
一方、3者間ファクタリングの場合は、売掛先からの承諾を得たうえで債権譲渡を行うため、債権譲渡登記をしなくても対抗要件を備えられます。
そのため、債権譲渡登記は不要です。
また登記不要で利用できるファクタリング会社も存在するため、問い合わせの際にファクタリング会社に確認しましょう。
ファクタリングにおける債権譲渡登記について詳しくは、「ファクタリングにおける債権譲渡登記は必須?登記不要なケースを解説」の記事をご覧ください。
6.まとめ
ファクタリングでは売掛債権(売掛金)が譲渡の対象となります。
売掛債権をファクタリング会社へ買い取ってもらうことで、売掛金の支払期日を待たずに資金調達が可能です。
近年、法律の改正により、支払期日や金額が確定した確定債権以外にも、商品の納品やサービスの提供が済む前の将来債権がファクタリングで扱えるようになりました。
また、改正民法では譲渡禁止特約が付いている売掛債権の譲渡も有効とされており、ファクタリング利用の幅が広がっています。
ファクタリング以外にも債権を債権を扱うサービスには債権回収サービスや売掛債権担保融資、債権保証サービスなどがありますが、利用の目的や対象の債権が異なるため、それぞれの違いを理解したうえで、自社に適した方法を検討しましょう。
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筑波大学大学院修士課程修了後、上場企業に勤務。不動産ファンドの運用・法務を担当した後、中小企業の事業再生や資金繰り支援を経験。その後弊社代表から直々の誘いを受け、株式会社ビートレーディングに入社。現在はマーケティング・法務・審査など会社の業務に幅広く携わる。
<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者