2者間ファクタリングでは、債権譲渡登記が必要になることがあります。
しかし、債権譲渡登記の手続きには費用がかかるだけでなく、売掛先にファクタリングの利用を知られるリスクもあるため、できれば避けたいと考えている方もいるでしょう。
また、個人事業主は登記ができないため、ファクタリングの利用ができないのではないかと心配している方も多いのではないでしょうか。
本記事では、ファクタリングにおいて債権譲渡登記は必須なのか、登記不要なケースもあるのかなどを解説します。
また、ファクタリングにおける債権譲渡登記とは何か、債権譲渡登記の目的やメリット・デメリットも説明します。
具体的な手続きの方法にも触れるので、ファクタリングの利用を検討している方はぜひ参考にしてください。
ファクタリングにおける債権譲渡登記について理解するために「ファクタリングとは?」の記事もあわせてご覧ください。
目次
1.そもそも債権譲渡とは
そもそも債権譲渡とは、何を指しているのでしょうか。
ファクタリングと債権譲渡は似ていますが、目的や方法はそれぞれ異なります。
ここでは、債権譲渡の概要について説明します。
1-1.債権譲渡の法律上の取り扱い
債権譲渡とは、債権の内容を維持したまま債権を第三者へ移転することです。
債権に譲渡禁止特約が設定されている場合、以前までは自由に債権譲渡できませんでした。
しかし、2020年に民法が改正されたため、債務者が債権の譲渡を制限する意思表示をしていても、債権者が自由に債権譲渡できるようになっています(民法第466条2項)。
これにより債権譲渡がしやすくなり、資金の流動化を図りやすくなりました。
なお、ファクタリングは、売掛金を資金化(現金化)する方法で支払期日よりも前に売掛金から手数料を差し引いた金額をファクタリング会社から受け取れます。
一方、債権譲渡は不良債権を回収するための方法です。
支払いが困難になった売掛先が保有する債権を譲り受け、売掛先の債務者から売掛金や代金を直接受け取ります。
ファクタリングと債権譲渡の違いについて詳しくは「ファクタリングにおける債権譲渡登記や債権譲渡通知の目的・必要性とは?」の記事をご覧ください。
1-2.債権譲渡の対抗要件を取得する方法
対抗要件とは、当事者同士で成立させた権利を債務者や債務者以外の第三者に主張するために必要な条件のことです。
債権譲渡の対抗要件を取得する方法は、主に3つあります。
ここでは、その方法についてそれぞれ解説します。
1-2-1.債務者への通知
債務者に対する債権譲渡の対抗要件を取得するには、債務者に対して債権譲渡の事実を通知する必要があります。
また、内容証明郵便で債務者へ債権譲渡したことを通知すれば、債権譲渡を行った事実を債務者以外の第三者に主張できます。
なお、万が一、債権の二重譲渡が行われた場合、内容証明郵便が先に債務者に到達した方が優先的に権利を主張できます。
1-2-2.債務者の承諾
債務者に対する債権譲渡の対抗要件を取得するもう一つの方法は、債権譲渡について債務者から承諾を得ることです。
その際、公証役場で確定日付を取得することで、債務者以外の第三者に対して対抗要件を備えることができます。
1-2-3.債権譲渡登記
債権譲渡登記とは、債権が譲渡された事実を東京法務局で登記する方法です。
債権譲渡登記は、債権の譲渡人と譲受人が共同で申請する必要があります。
債権を譲渡した事実を債務者以外の第三者に対して主張できます。
ただし、登記した債権について債務者への対抗要件を備えるには、債権譲渡と債権譲渡登記をした旨を登記事項証明書の交付により通知しなければなりません。
また、債権譲渡登記ができるのは東京法務局のみです。
他の法務局では債権譲渡登記を受け付けていないため、注意しましょう。
代理人による申請も可能ですが、その場合は代理権限を示すための委任状を作成する必要があります。
2.ファクタリングにおける債権譲渡登記の目的
ファクタリングを利用する際も、債権譲渡登記が求められるケースがあります。
それはなぜなのでしょうか。ここでは、ファクタリングで債権譲渡登記が必要になる場合の目的について解説します。
2-1.二重譲渡を防止するため
二重譲渡とは、1つの債権を複数の相手に譲渡することです。
債権の譲渡は債務者と債権者の契約により成立し、実際に物を引き渡すわけではありません。
そのため、債務者と複数の債権者の間で債権譲渡の契約が行われ、二重譲渡が発生するケースもあります。
ファクタリングの契約をした債権について二重譲渡が行われた場合、譲受人であるファクタリング会社は債務の弁済を受けられなくなるリスクがあります。
しかし、債権譲渡登記を行えば、債権を譲渡した事実について対抗要件を備えることが可能です。
これにより、二重譲渡を防止できます。
二重譲渡について詳しくは「ファクタリングで二重譲渡をしたら犯罪!?発覚したときの最悪のケースは?」をご覧ください。
2-2.法的証拠を備えるため
債権譲渡登記は公的に債権の譲渡を示す方法であり、万が一の事態が発生しても法的証拠として利用できます。
例えば、ファクタリングの利用者が回収した売掛金を送金しなかった場合や二重譲渡が行われた場合に役立ちます。
債権譲渡登記があれば、ファクタリング会社が債権者であるという事実を証明できるからです。
法的証拠を示した上で債権者であると主張したり、必要な手続きを行ったりすれば、債権を回収できる可能性を高められます。
ファクタリングは、ファクタリング会社にとって少なからずリスクのある契約です。
よって、発生しうるトラブルへの備えとして債権譲渡登記を求めるファクタリング会社も存在します。
3.ファクタリングにおける債権譲渡登記のメリット
債権譲渡登記のメリットとしては、ファクタリング会社が債権を回収できなくなるリスクを軽減できる点があげられます。
そもそもファクタリングには、利用者とファクタリング会社の2者間で契約する2者間ファクタリングと、利用者・ファクタリング会社・売掛先の3者間で契約する3者間ファクタリングがあります。
3者間ファクタリングでは売掛先へ売掛債権(売掛金)の譲渡を通知しますが、2者間ファクタリングでは通知しません。
そのため、2者間ファクタリングはファクタリング会社にとってリスクが高い取引です。
なぜなら、2者間ファクタリングはファクタリングを利用する事実を債務者に知らせない契約方法であり、ファクタリング会社は債権の存在や二重譲渡の有無などについて債務者に直接確認できないからです。
よって、ファクタリング会社によっては、契約時に債権譲渡登記が必要になる場合があります。
ただし、ファクタリング会社によっても対応は異なり、債権譲渡登記が必須というわけではありません。
2者間ファクタリングと3者間ファクタリングについて詳しくは
「2者間ファクタリングとは?メリット・デメリットとやり方・注意点を解説」
「3者間ファクタリングとは?メリット・デメリットやおすすめの相談先、利用手順を解説」
の記事をご覧ください。
4.ファクタリングにおける債権譲渡登記のデメリット
ファクタリングにおける債権譲渡登記には、デメリットもあります。
債権譲渡登記に応じるかは、デメリットも踏まえたうえで慎重に判断する必要があるでしょう。
ここでは、ファクタリングにおける債権譲渡登記のデメリットについて説明します。
4-1.登記費用がかかる
債権譲渡登記を行うには、登記費用がかかります。
具体的には、登録免許税や司法書士への報酬などが必要です。
登録免許税は、債権の個数に応じて変わります。
登録免許税の具体的な金額は、債権が5,000個以下なら1件につき7,500円、債権が5,000個を超えるなら1件につき15,000円です。
債権譲渡登記を行うには専門的な知識が必要になるため、司法書士へ対応を依頼するケースが多いでしょう。
司法書士に依頼する場合、数万円から10万円程度の報酬を支払う必要があります。
債権譲渡登記を行うには数万円以上のまとまった金額がかかるため、ファクタリングの利用額も考慮したうえで必要性を判断すると良いでしょう。
4-2.売掛先に知られるリスクがゼロではない
債権譲渡登記をした内容は法務局に記録され、申請すれば誰でも閲覧できます。
売掛先が意図的に調べれば債権譲渡登記を確認できるため、ファクタリングを利用している事実を売掛先に知られるリスクが全くないわけではありません。
ただし、そもそも売掛先が何らかの情報を得ている場合や定期的な与信調査を行わなければ、債権譲渡登記を確認しようとはしないでしょう。
よって、債権譲渡登記をしたからといって、必ずしも売掛先にファクタリングを利用している事実を知られるとは限りません。
もちろん、登記により債権譲渡について公的な記録を残す以上、売掛先に知られるリスクがゼロではないことは理解しておく必要があります。
4-3.個人は利用できない
債権譲渡登記の対象は、法人が行う債権譲渡に限定されています。
そのため、債権譲渡登記が必要なファクタリングを個人事業主が利用することはできません。
ただし、債権譲渡登記が不要なファクタリングも多く存在します。
個人事業主に特化したサービスもあるため、個人事業主だからといってファクタリングを利用できないわけではありません。
ファクタリング会社によって利用条件はそれぞれ異なるので、個人事業主でも利用可能なサービスを探しましょう。
個人事業主でも利用できるケースについて詳しくは「ファクタリングを個人事業主が利用できる3つのケースとおすすめ8選」の記事をご覧ください。
5.ファクタリングを利用する際は債権譲渡登記が必須?
前述したように、ファクタリング会社によっては債権譲渡登記が不要なケースもあります。
そのため、「登記費用をかけたくない」「売掛先にファクタリングの利用を知られたくない」という場合には、債権譲渡登記が不要でも利用できるファクタリング会社を選びましょう。
ここでは、債権譲渡登記が不要なケースについて詳しく解説します。
5-1.2者間ファクタリングでも登記不要になるケースもある
2者間ファクタリングの場合、債権譲渡登記が必要になるケースが多いようです。
しかし、債権譲渡登記が必要かどうかは、利用するファクタリング会社によって異なります。
ファクタリング会社によっては、債権譲渡登記が必要ない場合もあるため事前に確認しておきましょう。
また、審査の結果によって債権譲渡登記が必要かどうか決まる場合もあります。
債権譲渡登記が不要であれば、手続きの手間や費用が発生しないためファクタリングを利用しやすくなります。
また、早期の資金調達が可能になるといったメリットもあるため、早めに資金調達したい場合は債権譲渡登記が不要か問い合わせの際に確認し、利用するファクタリング会社を選びましょう。
なお、個人事業主の場合は債権譲渡登記ができないため、ファクタリングの利用を検討する際には個人事業主も利用可能な登記不要のファクタリング会社を選ばなければいけません。
5-2.3者間ファクタリングなら原則登記不要
3者間ファクタリングの場合は、原則として債権譲渡登記は不要です。
そもそも3者間ファクタリングは、利用者(利用会社)・売掛先企業・ファクタリング会社の3者間で契約するファクタリングです。
契約の際には売掛先への通知や承諾が必要となる(対抗要件を具備する)ため、債権譲渡登記は不要となります。
売掛先から承諾を得ることで、ファクタリング会社は売掛先へ直接売掛金の存在を確認することができ、売掛金も回収できるようになるため、未回収リスクの軽減にもつながります。
そのため、債権譲渡登記ができない個人事業主でも利用しやすいでしょう。
ただし、売掛先から承諾を得たり債権譲渡の通知をしたりしなければいけないため、2者間ファクタリングに比べて資金調達には時間がかかります。
即日の資金調達はできない可能性が高いので、余裕を持って申し込みましょう。
6.まとめ
2者間ファクタリングでは、債権譲渡登記が必要になるケースが多いです。
しかし、債権譲渡登記をする際には、手続きに手間や費用がかかるだけでなく、売掛先にファクタリング利用を知られてしまうリスクもあります。
また、個人事業主は債権譲渡登記ができないため、登記が必要な場合にはファクタリングの利用ができません。
ただし、ファクタリング会社によっては債権譲渡登記が不要で2者間ファクタリングを利用できるケースもあります。
そのため、まずはファクタリング会社に登記不要で利用できるかどうかを問い合わせてみましょう。
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筑波大学大学院修士課程修了後、上場企業に勤務。不動産ファンドの運用・法務を担当した後、中小企業の事業再生や資金繰り支援を経験。その後弊社代表から直々の誘いを受け、株式会社ビートレーディングに入社。現在はマーケティング・法務・審査など会社の業務に幅広く携わる。
<保有資格>宅地建物取引士/貸金業務取扱主任者